パフェと葉介

 

「だから、パフェは嫌いだと言ったじゃないですか」


 そう言いながら、なんの茶番だ、これは、と冨樫は思っていた。


 俺が食べたパフェこんなのじゃないし。


 確か、もっと小さなやつだった。


 考えたの、社長だな。

 これだからおぼっちゃまは……と思ったとき、パフェの向こうから声が聞こえてきた。


「食べなさい、葉介ようすけ

 好きだったろ? パフェ」


 言葉を出し終わる前に、その声を聞いてしまい、冨樫は固まる。


 声自体はまったく違うのだが。

 その口調が消えた父のものとそっくりだったからだ。


 どうやら、高尾のようだ。


 今日は狐の面もかぶっていないので、その姿はまったく見えない。


 ただ声だけが聞こえてくる。


 父とそっくりだというその姿は見えず、声も違うのに。


 何故か父が乗り移ったかのように感じた。


「心配するな、葉介。

 これ食べたら、また僕がいなくなるんじゃないかと思ってるだろ。


 ……大丈夫だ。


 僕はあの山では死んでない」


 父の口調でつむがれるその言葉に、ふいに泣きそうになったが、グッとこらえる。


 そのとき、ふいに高尾がいつもの口調に戻り、言ってきた。


「いや、ほんとに。

 とりあえず、山では死んでないみたいだよ。


 死体を見つける山のババが見つけなかったから」


 またなんの妖怪なんだ、それは……。


 っていうか、いきなり戻るな~っ、と思ったとき、あっ、こらっという顔をしている壱花の側から、高尾が更に軽い感じで言ってきた。


「だからさ。

 今も、きっと何処かにいるよ、葉介のお父さん」


 あやかしらしい無責任さだなと思うのに。


 何故かホッとしている自分もいた。


 あの日消えた父は、このあやかしたちのように、目には見えなくとも何処かで生きていて。


 いつかふわりと現れるかもしれないし、現れないかもしれない。


 そんな風に考えたら、何故だろう。


 真面目にいろいろと考えていたのが莫迦らしくなってきた。


 この適当な連中と父も同じだと思ったら、ひとり真剣に思い悩んでいることが本気で莫迦莫迦しくなったからなのか。


 それとも、父も彼らのように気ままに、今も何処かで笑ってのんびり過ごしているのかもしれないと思ったからなのか。


 ふいに高尾の姿が見えた。


 改めて見る高尾は消えたときの父とまったく同じ顔をしていた。


 初めてガラス越しに見たときのチャラさはまるでなく。


 パフェの向こうから自分を眺めていた父がそうであったように、ただ穏やかに微笑んでいた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る