宇宙人も来ました
会社帰り。
冨樫は、社長があの間抜けな風花壱花を好きだとしたら、会社にどのような悪影響があるかについて考えていた。
そして、気がつけば、見知らぬ路地に立っている。
普通にいつものビルの角を曲がったはずなのに、と冷たい風が吹きすさぶ場所で冨樫は思っていた。
表通りの灯りの届かぬそこには、見たこともない公園があり、その向かいには、赤提灯がさがった小さな店があった。
ビルを背にしたその店は、一見、呑み屋のようだが違う。
強い風に巻き上げられたのか土埃がついて少し見えづらいガラス戸の向こうには、色とりどりのお菓子やオモチャがあった。
棚に天井にと、所狭しと並んでいる。
駄菓子屋のようだった。
駄菓子か……と思いながら、なんとなく奥まで覗いたとき、冨樫は信じられないものを見た。
店のカウンターの横には、小洒落た薄手のコートを着た、何処かで見たような顔の艶っぽいイケメン。
そして、その奥には、倫太郎と壱花が並んで座っていた。
何故、あの二人がこんなところにっ。
冨樫は開けようとした手を引っ込め、向こうから見られないよう、さっと隠れた。
そのとき、通りの向こうから誰かが来たので、慌てて店の側を離れる。
「いらっしゃいませ~」
ガラガラと戸が開く音がして、壱花は振り返った。
すると、入り口に宇宙人っぽいものが立っていた。
銀色で目が光り、頭だけでかくて、手足がひょろひょろしている。
グ、グレイ星人……?
っていうか、グレイ星人って、グレーっぽいから、グレイ星人?
それとも、グレイ星の人っ?
倫太郎が聞いていたら、
「莫迦か。
グレイというのは、宇宙人の種類だ。
グレイ型宇宙人だろ。
グレイ星人ってなんだ」
と突っ込んでいたところだろうが。
そんなことをぐるぐる考えている間に、そのグレイ星人はふらふらとこちらにやってきた。
ひい、と逃げそうになったが、店の人間が逃げるわけにもいかない。
なんとか踏みとどまった壱花の両脇から、倫太郎と高尾がそのグレイ星人に普通に、
「いらっしゃい」
と言う。
「い、いらっしゃい」
と言いながら、壱花は小声で二人に訊いた。
「この店は宇宙人も来るのですか」
「今のところ来てないな」
壱花は、ハッとした。
「じゃあ、もしや、あの方はすごい未来から来た人類ですかっ。
やはり、グレイ星人というのは、未来から来た人類だったんですかっ」
一部でささやかれる説を叫ぶ壱花に、無言で商品を眺めていたグレイ星人が笑いだす。
「莫迦……」
と倫太郎が言った。
「その人はお前も知ってる常連さんだ」
「え?」
ドロン、とグレイ星人はちょっと腹の出たやさしそうな男の人になった。
あの狸のお父さんだった。
「やあ、すみません、壱花さん。
話が聞こえてきたもので」
未来から人がうんぬんと話していたのが聞こえて、からかってみたようだ。
「いや、息子が風邪をひいて、此処のお菓子が食べたいって言うんで」
と息子さん好みの菓子を幾つか選んで買っていった。
お見舞いにと思ってか。
倫太郎が少しお菓子を増やしていたのを壱花は見た。
「ありがとうございます。
あ、そうそう。
さっき外に誰かいましたよ。
あんまり疲れてるようには見えない雰囲気のサラリーマンの人」
顔は見えなかったですけどね、と笑って、狸のお父さんは帰っていった。
「なんで入ってこなかったんでしょうね?
社長がワルサー構えてたからですかね?」
と言う壱花のあとから、高尾が言う。
「倫太郎のところの社員だったんじゃないのか?
安らごうと思って此処に来たのに、倫太郎がいたから逃げたとか?」
その言葉に、ん? と気づいたように、倫太郎は狐の面をつけていた。
「いやいや、今更遅いですよ」
と壱花は苦笑いする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます