ある意味、タイムマシン……?

 



「額怪我したんですよ、ほらー」


 夜。

 壱花は倫太郎と高尾に、前髪を持ち上げ、赤くなった額を見せる。


「どうしたの、それ」

と高尾に訊かれ、


「キーボードで打ったんです~」

と壱花は言った。


「キーボード?」

「ああ、パソコンの」


「どうやって打つの、それ」

と高尾は笑ったが、倫太郎は、


「仕事中、うたた寝なんかしてるからだ」

と言ってくる。


「あれっ?

 なんでご存知なんですか? 社長」

と壱花は驚いた。


「うつらうつらしてて、キーボードに額から落ちたんですよ。

 冨樫さんが冷ややかに見てただけだったのが、せめてもの救いです」

と言って、


「それ、救いなの?」

と苦笑いした高尾に言われるが。


「いや、怒鳴られるよりマシかなーって」

と壱花は言った。


「俺が放っておけと言ったからかもしれないが。

 まあ、呆れて怒るのも面倒臭かったんだろうな」

と倫太郎が言ってくる。



 そのまま三人で店番をしていると、ガラガラと戸が開き、ちょんまげの人が入ってきた。


 明らかにお侍な格好している。


 綺麗な顔をしているので、一瞬、映画の撮影かと思ったが、そうではないだろう。


 どっきりの可能性もあるが、それを言うなら、この店自体がどっきりだ。


 というか、どっきりであって欲しい気もしている、と思いながら、壱花は倫太郎に訊いた。


「あれはあやかしですか?」


「いや、生活に疲れた藩士の人だ。

 たまに来る」

と無言で店内を見ているお侍さんを見ながら倫太郎は言う。


「此処の時間の流れはどうなってるんですか……」


 藩士の人は綺麗な色の飴玉を選ぶと、ありたけの金を置いて帰っていった。


 おそらく一円にも満たないが、倫太郎はそれで飴玉を売っていた。


 あの藩士の人にとって、たまに迷い込むこの店で買う甘いものが、心を癒す大切なものなのだろう。


 それをわかっているから、代金がたらなくても売っているのに違いない。


 社長、意外にいいとこあるな、と壱花は思った。


「江戸とつながったりもするんですね」


「いろんなところから迷い込む奴いるぞ。

 こんな毛唐けとうの菓子を売りおって、と言って斬りかかって来られたこともある」


「それ、よく助かりましたね」


「俺の愛用のワルサーで脅してやったら逃げたぞ」

と倫太郎は棚に飾ってある銃を取り出してくる。


「……それ、クジで一等のやつですよね」


 明らかなオモチャだが、この人の目つきの鋭さとか迫力で本物に見えたんだな、と壱花は思った。


 いろんなところからか……と思った壱花は、ハッとした。


「もしや、未来から来たりもするんですかっ?」

と叫んでしまう。


 倫太郎は少し考え、頷いていた。


「まあ、そういうこともあるかもな。


 今まで、これは未来から来たな~ってやつに会ったことはないんだが。

 気づいてないだけなのかもしれないし。


 だって、この先、そんなに服装や髪型が変わるとも思えないだろ。


 昭和の半ばくらいのサラリーマンが来ても、今の人と区別がつかないのと同じだよ。


 それに、未来って言っても、ちょっとした未来とかあるじゃないか。


 例えば、五分後の冨樫とがしが今、ここにやってきたとしても、それが未来の冨樫だとはわからないし」


 いやまあ、そりゃそうなんですけどね~、と壱花たちが笑っていたそのとき、富樫は店の外にいた。





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