キミイロに染まる
フィオネ
雨の日の秘め事
「雨……」
空を覆う雨雲が、周りの雑音をかき消すほどの雨粒を降らしている。
私は雨の日が好きだ。嫌な人の陰口や騒がしい自動車の音、その他諸々の五月蠅い(うるさい)ものが私の耳の中から消えてなくなる。
響くのは、雨が降り注ぐ音と、反響する雨粒の声。たまにカエルが鳴いたり、虫の音色が聞こえてくるのも心地がいい。
そんな中、私は公園の中の屋根がある辺りを見渡せるベンチで読書して過ごしていた。
私はしがない高校二年生。名前を『桐山茜(きりやまあかね)』という。容姿は並で、散髪に行くのがおっくうで伸ばしてしまった長い黒髪に、女性としては少し高い背丈をしている。人付き合いがあまり得意ではなく、友達もほとんどいない。学校でもずっと本ばかり読んでる。
でも私はそれでもいいのだ。雨の日には今のように公園のベンチで読書をする。私にとってはこれが一番の癒しだ。しかも今の季節は梅雨だから学校帰りにはほとんど毎日ここにいる。
「今日も気持ちいなぁ」
こうやってたまに涼しい風も吹いてくる。雨の日は嫌いな人も多いが、むしろ都会では感じれなくなった自然を味わうにはもってこいだと思う。
私が雨の日が好きな理由はざっとこんな感じだ。でも最近はもう一つ好きになれる理由が増えた。
私は持っていた腕時計で時間を確認する。時間は夕方の6時を指している。それを見た瞬間、外から誰かの足跡が聞こえてきた。
「ごめ~ん茜。遅れちゃった?」
「美羽はいつも遅い」
そこに現れたのは、小麦色の肌に化粧をして、髪も黄色く染めた女の子が現れた。着ているのは同じ高校の制服で、彼女とは一緒の学校に通っている。名前は『大月美羽(おおつきみう)』で私と同じ学年だ。とは言ってもクラスは違う。
さらに容姿を付け加えると爪もマニキュアをして、制服の丈も短い。ついでに言うと背丈も低い。持っている鞄にはジャラジャラとしたスクラップやかわいいぬいぐるみもついてる。
いわゆる『ギャル』という人種だ。
「しょうがないじゃん、友達と話してたんだもん。コーデ雑誌とか、この前言ったスイーツバイキングの話とかさ。色々盛り上がるの」
「友達が多くて羨ましいわね。私はそんな経験全くないから時間が取られずに済むわ。コーデより本の世界が好き」
話し方も明るく、そして元気がある声。自分で言うのもなんだけど、一方の私はクールで冷たい雰囲気の話し方をしている。美羽とは全く違う。
性格も、容姿も、趣味も、人間関係も、全くの別の人間だ。
「あれあれ~? ちょっと遅れたくらいで拗ねちゃったの? もしかしてウチの友達に嫉妬したぁ?」
「……」
彼女の言葉に体がピクリと反応する。それを見て美羽はさらに顔をにやにやし始める。
「やっぱり図星だった? 美羽って本当に私のこと好きなんだなぁ。えへへ」
そして顔を赤くして勝手に惚気始める。私は少しため息をついて呆れていた。
「これだからギャルは……」
そして私は仕返しとばかりにボソッとそう呟いた。
「ちょ、またそういうこと言う。別にギャルは悪くないでしょ。人が不快に思うこと平気で言って。そんなんだから茜は友達少ないんだよ!!」
すると彼女は先ほどと打って変わり、目を吊り上げて怒り始めた。とはいっても全く恐くないし、怒り方もどことなくかわいい。彼女は見た目のままに子供っぽくて単純で無垢なのだ。
私は色々と偏見にまみれて彼女のようには振舞えない。だからこそ私は彼女に惹かれたのだ。
私は読んでいる本を閉じて鞄にしまうと、怒る彼女の手を突然つかみ取った。当然ながら美羽は私の急な行動に戸惑っていた。
「ちょ、茜!?」
「嫉妬するに決まってるじゃない。美羽とずっと喋ってるなんて」
そう言って私は彼女に顔を近づける。
「あ、」
「美羽は私だけの……」
「あっ」
その瞬間、彼女が目を閉じて少し震えているのが分かった。
怯えてる? 緊張してる?
でも止まれない。だってもう何回もキスはしている。
「うぅん……」
「はぁう……」
軽くキスをすると、そのまま口元を離す。美羽は少し名残惜しそうに口元をもう一度近づけてきたが、私はそのまま体を大きく離した。
「ふふ、美羽こそ。からかってきたくせに期待してる」
そして私は惚けている美羽にちょっとどや顔をしてみた。当然ながら、また彼女は怒りだす。それも頬を膨らませたまま。
「もう茜はほんっとうに性格悪い!!」
「知ってる、ふふ」
そう言って口元を微笑ませながら彼女と軽く視線を外した。
何度も言うが美羽と私はまるで違う。だからこそ自分にはない魅力があるし、自分にはない発想も生まれる。だから彼女といると予想外な事も起こりうる。
「えっ?」
私が悦に浸っている中、美羽は突然私の手を思い切り握りしめてきた。思わず声を漏らし、再び彼女の方向を向く。
「だって期待しちゃうよ。好きな人との待ち合わせって。そう……でしょ?」
そして今まで以上に美羽は顔を真っ赤にして、そして俯きながら震える声でその言葉を紡いでいた。
「あぁ……、ご、ごめん……」
彼女の表情を見て私も思わず、顔が真っ赤になった。
そうこんな風に予想外な事のことをしてくるのである。これが彼女の悪いとこであり、好きなところでもある。
今日の雨はいつも以上強い。日も落ち始めて寒くもなってくる。
でも私はずっと暖かかった。握り合った手から彼女のぬくもりを感じる。
「ねぇ、もっかいして?」
彼女の静かにそう問いかける。私はそのまま軽く頷くと、そのままもう一度唇を重ねていた。
私は雨の日が好きだ。
もう一つ好きになれる理由。それは誰もいないこの静かな空間で私の恋人と一緒にいられるからだ。
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