第14話 悪七慶太1

はぁ・・・楽しかった。あの後、普通にデートしました。


食べ歩きして、そのまま水族館に行ってきました。見たことない魚もいたけど現実にいる魚なのかね?無駄なところにこだわっているな運営よ。ログアウト不可だからこそ息抜きも必要というわけか。おかげでデートできたからよかったんだけどね。運営様。いい仕事してますねぇ〜〜。そして今なにしてるかというと・・・。


「いい・・・はぅ・・・。香りがオレを包み込んでくれてるぅぅぅ」


はい。マイルームに戻ってベッドですりくんタイムをしております。お風呂上がりの匂いも素晴らしいものだ。


お風呂?一緒に入るのは失敗しましたよ。ただスキルを使って鍵は開けたよ?バレないように音を立てずに覗くスリルも興奮するよね。


変態?だから男のロマンだろ?ブラザー!

おかげで生尻は脳内ライブラリーに保管できたよ。そのあとは叱られましたけど・・・。



「んもーー(慶太もいい匂い・・・)。恥ずかしいんだからね。


私仕事まだ残ってるから朝になったら一旦戻らないといけないのよね。その間ナビがいない状態になっちゃうけど大丈夫?」


ぬわ・・・そ、そうだった。ずっと一緒にいれるわけじゃなかった。普通に寂しい。まぁしょうがないよね。美貴は運営側だし。


「んーーいなくなるのは嫌だけどしょうがないよね。いい子にしてるからこっちにきたらまたご褒美ちょうだい」


「ご、ご褒美って・・・。しょうがないなぁ〜。いい子に頑張ってたらいいよ(いっぱいまたくっついていいからね・・・、私だって寂しいし・・・。こんなにくっつかれたのはじめてなんだもん)」


「ありがとう。次も朝までそばにいてね」

そう言った後、強く抱きしめて彼女との隙間をできる限りなくした。


彼女がいつまにか自分のことを受け入れてくれている気がした。勘違いしたら嫌われると思うので気のせいなんだきっと。そんな痛い子になりたくないので己に言い聞かせるとしよう。それに・・・、信じてもいいのだろうか・・・。また裏切られるかもしれない・・・。


しかしハイロリさんは異世界か・・・どんな子なのか知りたかったな・・・。美貴と付き合えたら幸せだろうなって思う。仮にハイロリさんが突然目の前に現れてしまった時、オレはハイロリさんのことを好きになってしまうのだろうか・・・。いない人のことを考えてもしょうがない・・・。


うちの子供達はなにしているんだろうか。早めに帰れば大丈夫だよね・・・。帰れそうにない気がするもするけど・・・。パパおかえりぃと言っている子供達の姿が脳裏に浮かぶ・・・。


一度考えてしまうと色々な思考が止まらなくなってしまう。オレは父を小さい頃亡くしている。父の記憶・・・。


夏の暑い日、父は心不全で亡くなった。父の記憶はもうほぼ残っていない。唯一鮮明に覚えているのは、父を最後に見た記憶。棺の中の父だ。必死にオレの視界を遮ろうとしてくれている親族の手を払いのけて見た光景。どろどろに腐り始めていた父の顔だった。


後から気づいた。所詮人間ってただの動くタンパク質の塊なんだなって。父の死を皮切りに毎年のように親族が亡くなっていった。もはや死に対する感情は無くなっていた。周りが悲しんでてもオレの心の中は無関心、無感情。


しかし疑問はあった。何回忌とかあるがそれは生きてる側の自己満足に過ぎない。そこまで弔いたい感情があるならば、死者に干渉せず安らかに眠らせてあげるべきなのではないかと。死こそ、静寂の楽園。宗教上の問題なのかもしれない。ちなみにオレは無信仰である。ほとんどの人がなにかしらの神を崇めているのはわかる。


だが信仰する相手を間違っているのではないかと。アダムとエバ。ヤハウェによって創造されたとされる最初の人間である。寵愛を受けているのならば、なぜヤハウェは禁断の果実を配置したのであろうか。試練といえばそれまでなのかもしれない。そもそも配置しなければよかったのではないかと思う。なぜ、陥れる可能性を残したのか。


人間は欲望の塊である。現在地球上で最も繁栄している生物が人類であろう。それと同時に地球上で最も醜い生物もまた人間だと思う。それ故に人間とは本来悪魔側なのではないか。神ではなく、悪魔こそ人間が信仰すべき存在なのではないのか。


地球では人口問題、雇用問題、食料問題など様々な問題を抱えている。手を取り合えばいい。だがそんなことをしようともしない世界。表面上では体裁を繕っているが、腹の中では自国の利益のため探り合う。探り合うくらいなら、なぜ統一を目指さないのか。従わぬなら力尽くで従わせればいい。反乱は起きるだろう。しかしその戦いの勝者が善となる。敗者は常に悪だ。そうして滅びと繁栄を繰り返すのが1番いい。戦のない平和な理想郷など人間が人間である限り、作ることなど不可能だと思う。領地は限られている。繁殖、繁栄し続ける限り領地は足りない。


若者に道を譲る。そんな言葉をたまに聞く。それに対してまったくその通りだなと思う。仮に60歳としよう。60歳に達した者には安楽死を。そうすることで若者達へ道が拓ける。人口抑制にもなるのでそれなら戦のない平和な理想郷に近づけるのではないか。周囲の者からしたら、オレは異常者なのだろう。けれどもそれが当たり前の世の中だったら、周囲の人間は同じくそう思うのだろうか。きっとなにも思わないのだろう。


現在の環境からは異端と思えるオレは、間違いなく悪魔側だと思われるのだろう。そもそも自分自身は悪魔側だと思っている。そんなオレの一面を彼女が知った時、どう思うのだろうか・・・。異端と罵られ、蔑まれ去っていくのだろう。オレが人間であると同時に、彼女もまた人間なのだから・・・。



ん・・・?オレは仰向けにさせられ、彼女に上から抱き締められていた。


「美貴どした〜〜?突然・・・」


「仕返し〜〜。っていうのは冗談。なんか抱き締めてあげないとなって思ったの。なんか他のこと考えてたでしょ?


ダメなんだよ?女の子が近くにいるのに他のこと考えちゃ」


不思議と心が満たされていった。微笑みながらオレは言った。


「気のせいじゃない?・・・・・・美貴、ありがと」


彼女さえ良ければ付き合って、その先は結婚してそれからもずっとそばにいて欲しいと思った。それと同時に彼女を失ってしまった時、オレはどうなってしまうのだろうかというひとつの疑問も脳裏に浮かんだ。


「やっぱりぃ〜〜」


そう言った彼女の笑顔はとても美しく、とても妖艶でオレの心にトドメを刺すのには充分だった。


そのままオレ達は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る