第11話 終戦条約、『オディッサ条約』の締結

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 一八四七年五の月一八の日。

 後世の歴史家達が不可解な点が一部残るというものの一つ足りとも証拠が出てこず、永遠の闇に葬り去られた謎の終戦の日より後。つまりは表の歴史としては反乱軍首謀者リシュカの戦死によって終わった戦争以降、急速に終戦処理は進んでいくことになる。すなわち、終戦条約の締結に向けた交渉が各国外務省と当事者達であった各国軍を中心に進められていった。


 まず一八の日を持って一時停戦状態だった各国軍は完全停戦状態へ移行。これ以降一切の戦闘行為は全戦線――主戦線はもちろんのこと、南方大陸戦線においても――において厳禁となった。

 条約締結地はオディッサに決定された。光龍皇国を除く当事国それぞれの中央地点であり大規模な会議場に適する都市だからである。


 条約交渉は五の月二十五の日より各国外務省の事務官方と軍参謀本部クラスから始まった。交渉はどこを妥協点にするかでやや難航する場面があったものの膨大な交渉内容はなんとか纏まり、各国の代表者などが集まる本会議は六の月四の日から始まった。


 人類諸国側からは、連合王国・法国・連邦・共和国・協商連合の外務省全権大使――ただし協商連合は暴動鎮圧後に勢力が再び入れ替わりフィリーネ追放派閥は大方放逐されている――と、軍サイドは連合王国・法国・連邦・協商連合の遠征軍首脳陣と共和国軍はサンクティアペテルブルク方面派遣軍指揮官が参加となった。もちろんこの中にはアカツキやリイナにエイジスも参加している。

 さらに皇国全権代表として龍皇ココノエや実朝が参加。また人類諸国軍と協調して多大なる貢献を果たした妖魔諸種族連合共和国全権代表としてダロノワ大統領もいる。

 対して帝国側は外務省側として外務大臣が、軍サイドは陸軍大臣及び海軍大臣などでいずれもルシュカの息がかかっている側の者達であった。

 アカツキはマーチスの後ろに控えるように座りながら、周りの様子を見渡す。

 終戦となり人類諸国は戦勝による自信に満ち溢れ、反面帝国側はかつての自信は半分ほど喪失しているように思えていた。

 ただ、敗戦の割にやけに理性的かつどこかほっとしているのは、これ以上死体の山を築き下手をすれば帝都まで侵攻されずに済んだからだろうか。もしくは一人の死に再戦後のおおよその罪を擦り付けて条件付き降伏に持ち込んだからか。確かにあのままズルズルと戦い続ければ、無条件降伏での敗戦も有り得たのだから、安堵してもおかしくはないかとアカツキは心中で独りごちていた。

 午前一〇時。条約本会議一日目が始まった。

 まずは事前交渉でまとまった条文の確認からだった。

 以下は『人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国及び光龍皇国と妖魔帝国による第二次妖魔大戦終戦に関する条約』、いわゆる『オディッサ条約』の条文である。



【人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国及び光龍皇国と妖魔帝国による第二次妖魔大戦終戦に関する条約条文概要版】

注)詳細を除く概要版であり、一部記載のないものであり主だった条文である。


1,妖魔帝国は人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国及び光龍皇国に対して別記を含めた条件付降伏を認める事で第二次妖魔大戦を終戦とする。


2,妖魔帝国は妖魔諸種族連合共和国の独立を認める。


3,妖魔諸種族連合共和国と妖魔帝国の国境はムィトゥーラウより東八〇キーラ地点からを南北で結んだ地点とする。


4,3に関し、両国国境から東西約四〇キーラを非武装地帯終戦後監視ラインとする。


5、妖魔帝国は妖魔諸種族連合共和国が人類諸国と締結する安全保障条約を承認する。


6、妖魔帝国は光龍皇国の植民地化を解除した上で独立を認める。妖魔帝国軍は人類諸国統合軍が既に送っている先行部隊及び先行治安維持機構に従い、七の月より本格的に駐屯開始する人類諸国統合軍光龍皇国復興部隊が駐屯を開始するまでに完全撤兵及び文民機構も完全に国外退去することを認める。


7、妖魔帝国は光龍皇国が連合王国と締結する安全保障条約を承認する。


8、妖魔帝国は人類諸国各国に対して賠償金を支払うこと。各国で比率分配されるが、連合王国通貨換算で総額五〇〇億ネシア。物納、金納双方可能。ただし、妖魔帝国の財政状況などを鑑み短期間での返済は難しい為、本条約締結では四〇カ年四〇回支払いであるが最大五〇カ年五〇回分割までの延長を可能とする。


9、8に関し、妖魔帝国は妖魔諸種族連合共和国へ別途賠償金を支払うものとする。物納可能な為、大半は妖魔諸種族連合共和国主権領域の旧妖魔帝国内財産でこれを補うものとする。ただし亡命者及び粛清者が妖魔帝国に対して個別賠償を求めた場合人類諸国はこれに関与しない。


10,に関し妖魔帝国は皇国に対しても賠償金五〇億ネシアを支払うものとする。こちらも物納可能。賠償金支払いは8と同様に四〇カ年を基本として最大五〇カ年まで延長可能とする。


11,妖魔帝国は人類諸国南方大陸から撤兵すること。


12,妖魔帝国は南方植民地を放棄すること。当面の間妖魔帝国南方植民地は人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国が管理する。


13,妖魔帝国は本大戦を引き起こした皇帝レオニードの退位を認めること。また、レオニードは本大戦を引き起こした張本人である為、後日行われるオディッサ国際軍事裁判にて正式にその罪と処遇を決定する。


14,13に関して裁判の判決が出るまでレオニードの身柄は人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国が管理下に置く。


15、人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国及び光龍皇国は妖魔帝国の君主を本大戦を終結に導いた者としてルシュカ・ヨマニエフと認め、終戦後の国交についてはルシュカ・ヨマニエフ及びルシュカ・ヨマニエフが新設予定の立法院と結ぶ。当面の窓口は帝国外務省とする。なお、新体制についてはルシュカ・ヨマニエフが遂行中のリシュカ派及び関係者を排除したものを求める。


16,15に関し、人類諸国は妖魔諸種族連合共和国内設置の連絡拠点領事館だけでなく帝国ドエニプラ、せヴァストゥーポラに領事館を、帝都ルシュクブルク(旧名レオニブルク)に大使館を設置する。妖魔帝国はこれを認めること。


17,15に関し、人類諸国及び妖魔諸種族連合共和国と光龍皇国は妖魔帝国と開かれた関係になるものとする。


18,妖魔帝国はリシュカ・フィブラの行った戦犯行為に関する資料を提出すること。


19,妖魔帝国軍の規模は開戦前七割を最大とする。


20,主内容は以上の通りだが別記詳細な条文もありこちらも交渉を随時行う。また、終戦条約締結後に結ぶ他の条約などについても今後は当面終戦条約をベースとしたものとする。


21,本条約締結後、効力は発揮される。



 『オディッサ条約』は以上の他にかなりの条文量になるが、主だった内容はこのような形で出された。

 既に前段階である程度内容が固まっている為、この日でおおよそ相互に内容に対して同意された。

 翌日以降も条文の内容に対する交渉は継続され、賠償金の支払い方法やカ年数をさらに五年延長すること、別途締結の捕虜相互変換条約に話は移り、非常に理性的に話は進められた。


 そして、六の月一七の日。

 『オディッサ条約』は締結された。

 この間にアカツキは現皇帝となったルシュカ・ヨマニエフと秘密裏の対談を行い戦中のリシュカの話や戦後展望に関する話を行ったらしいが、後者はともかく前者の内容については一切公文書には残らなかったという。また、リシュカ終焉の地へ定期的に訪れる話もされたというが、これの真実は語られず表ではあくまで終戦記念の地へ慰霊に来たとされたらしい。

 終戦の真実は、ごく一部を除いて結局知られなかったわけである。

 ただ、何にせよ。

 こうして第一次妖魔大戦から続き第二次妖魔大戦を経た人類諸国と妖魔帝国との戦争は終結した。

 これより先、人類諸国は多大なる犠牲を払うこととなったが安定した平和を享受することとなり連合王国王都アルネセイラの復興計画も本格的に進んでいく。協商連合もようやく暴動が落ち着き、元の平穏を取り戻しつつあった。

 妖魔諸種族連合共和国は人類諸国と関係の深い国となり、大きな発展を遂げていくことになった。

 光龍皇国も終戦前まで苦難の年が続いたがココノエは条約締結翌月には龍皇として帰国。どうやらココノエの活躍は抵抗組織を中心にどこからか伝えられたらしく、解放された皇国民から凱旋の帰国として歓迎され復興の道を進んでいった。


 大戦は終わった。それは、どんな形であれ、悲しい最期の別れがあったにせよ彼にとっても同じで。


 大戦終結から六年後、一八五三年の春。

 その頃のアカツキ達を最後にお届けしよう。





あとがき

次回、エピローグ。

終戦後のアカツキ達の話です。

お楽しみに。

次回の更新にて、外伝などを公開しない限りは完結ボタンを押しての完結となります!

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