第3話 生物兵器の自爆攻撃

・・3・・

5の月8の日

午後2時半過ぎ

ホルソフから約三〇キーラ地点

統合軍野戦司令部


 反乱軍との直接的な攻防が始まった翌日。前日と同じようにそれなりの進軍スピードを維持しつつ半包囲を狭めていたけれど、昼になってとんでもない報告がいくつも飛んできた。


「反乱軍の反撃が強まるとは思っていたけれど、まさかこんな方法でほぼ足止め状態になるとは思わなかったな……」


「全くよ。進退窮まった状況での末ならともかく、積極的にソズダーニアを自爆させるだなんてね。やや先で爆発したのを目にした時は、とんでもない威力だと感じたわ。目の前じゃないのに、衝撃波を少し感じたもの」


「推測。ソズダーニアが魔力暴走による自爆をした事で生じた爆発力は、おおよそ二〇〇ミーラクラスの砲威力と同程度。かなりのものになります。それらが各戦域にて合計約七〇が自爆。前進が止まるのも致し方ないかと」


「直接的な被害がかなり大きいものね……。小隊規模が壊滅したなんて報告もあるわ。あの威力じゃ納得だけれども……」


 今まで何度か予想外の局面があったけれど、今回はとびきりだった。最後の戦いだからってこんなことがあるとは思わなかったけれど。

 反乱軍の取った戦法はとてもシンプルだ。歩兵同士の乱戦や白兵戦において、強力な兵器となるソズダーニアを投入。ここまではいい。ヤツらが登場してからはよく見る光景だ。

 ところがソズダーニアはある程度戦ってこれ以上は厳しいとなると、突如として突進。そしてドカン。とソズダーニア自身が大爆発。

 僕も目撃したけど、リイナの言うように相当な威力だった。上級魔法クラスは確実だろう。

 まさに自爆攻撃。前世ではテロ等でお馴染みの手段だった。

 問題はその威力。ソズダーニアが自爆した際の威力はエイジスが言ったように大口径艦砲クラス。前世であっても洒落にならない威力だ。しかもそいつが計約七〇箇所で起きたともなれば僕達統合軍側は局地的にかなりの被害を受けても仕方がなかった。

 こんなことになれば当然兵士の士気に悪影響を及ぼす。これまでソズダーニアそのものにも悩まされてきたというのに、挙句自爆だ。下士官以下は恐怖し、士官クラス以上は今から対策に悩まされることになっているわけだ。


「リシュカらしいというべきか……、僕以上に人が嫌がることをこれでもかとやってくる……。いきなり自爆って手段を取ってきたってことは追い込まれてるのかもしれないけど……、いや……、でも貴重なはずのソズダーニアをまだ郊外地で戦ってる時点で自爆させてるってことは……」


「もしかしたら、まだソズダーニアのストックは十分にあるってことかしら? 私達が見立てていた、最低数よりずっと多い……?」


「間違いないだろうね。まず全体で約二〇〇は有り得ない。終盤で極限まで追い詰められていたのならともかく、いきなり全体の三割以上を爆発させない」


「勿体ないものね。コストと釣り合わないわ」


「そう。てことは理性的かつ意図的に使ってきてる。となると、ソズダーニアの総数は少なく見積もっても約一〇〇〇かそれ以上も有りうるね」


「マスターの推測に肯定。約一〇〇〇いてもおかしくありません。ソズダーニアの製造方法は捕虜に対する聴取によれば、予め薬剤を注入しておき発動魔法を詠唱すれば化け物になります。直前まで真の姿を隠せる点はここにあり、今日に至るまでワタクシ達が苦しめられた大きな理由の一つです」


「ソズダーニア自体を察知するのは困難。戦闘力は一型でも厄介なのに二型、三型とありおまけに自爆もする。その自爆も比較的短時間で行われるとなると……」


「自爆までの短い時間で倒しきるしかないわね……」


「エイジス、君の火力ならやれる?」


「一部肯定。集中投射であれば可能です。しかし、周囲からの妨害を受けるとなるとモードディフェンスによる防御の方が効率的かと。また、五体程度までならともかく、それ以上となると撃ち漏らしも有り得ます。特に二型や三型であればなおさらに」


「厳しいなあ……。前線部隊の火力ではもっと難しい……。やっぱりタダじゃ進ませてもらえないか……」


 結論は、現状打つ手に乏しい。だった。

 野砲やロケット砲による直撃、上級魔法以上による大火力投入。他にはエイジスによる直接対処などいくつかやれないことはない。

けれど野砲やロケット砲は無誘導だし、上級魔法も他の敵歩兵や砲兵も相手にすることを考えると現実的ではない。エイジスは一人しかいないからこの手が使えるのは自分がいるところだけ。第一解放までならある程度の時間稼働は出来るけど、後の反動もあるし……。

あとは毒ガスという手もあるっちゃあるけど、アレはソズダーニアに対して効き目が薄いんだよね……。まさに化け物だよ。


「相手がソズダーニアを出し尽くすまで、とにかく自爆を防ぎきるように対処するしかないか……」


「釈然としないけれど、それしかないわね。ソズダーニア発動を握る能力者を狙ったとしても化け物になってしまえばあとは好き勝手させてるだけで狙う意味もないし、アレゼル大将閣下がされているゴーレムを向かわせて一か八かで発動前に討伐するかゴーレムを壁にするのもアレゼル大将閣下だからこそやれるだけ。ゴーレム搭乗能力者兵でやるのは得策じゃないわ。後が困るもの」


「そういうこと。とはいえ放置する訳にはいかないから、現場から応急策でもいいから何かあればすぐ共有するように伝えよう」


「サー、マスター。即時全体へ通達します」


「よろしく。あと前線司令部へ連絡。予備兵力の用意をって連絡しておいて」


「サー」


 エイジスに伝えると、僕は戦場の正面に視線を移す。

 数十キーラ先にはあの人がいる。あの手この手を使い最後の悪あがきでもするつもりなのだろう。間違いなくこの後も僕は予想にしない方法か、前世ならば非人道的で行われない作戦も平気で実行してくるだろう。

 最後だし友軍優勢だから長くはかからないだろうと思われていたこの戦い。

 でも、僕はそんな悠長な予測なんてこの時点で頭から消え去っていた。

 次は何をやらかしてくる。と。


 案の定、あの人はすぐに次の手を使ってきた。

 ソズダーニアの自爆攻撃に対しては奴等が発現した地点へ優先的に砲火力やロケット砲を向けたり、可能であれば戦闘機による航空攻撃かココノエ陛下達による航空攻撃を行う。といった現時点で取れるベターな手段で対処していた三日後のことだった。

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