第17話 改革承認とアカツキの新たな地位

・・17・・

「そちの改革案、よく理解した。良かろう、余の名を持ってこの改革案を採用とする」


 国王陛下は僕の目を見て、不敵に笑ってそう宣言した。

 よしよしよし!結果は採用!これで改革案は実行されたも同然だ!


「ありがとうございます!国王陛下ならば、そう仰ってくれると信じておりました!」


 僕は嬉しくて喜色を浮かべながら言う。横をちらりと見ると、お爺様はまるで自分の事のように喜んでくれていた。

 国王陛下の発言に対して側近たる三人達はというと、悪い意味ではないんだろうけれど、苦笑いをしていた。


「マーチス侯爵、これは大変なことになるぞ。私は外務大臣だからまだいい方だが、君は忙しくなるのではないか?」


「いや、エディン侯爵。一番苦労するのは財務大臣だ。確かにオレも忙しくなるが軍事に限るし、以前から進めたいと思っていた事が改革の名の下にやれるのならばやり甲斐もある。だが、財務大臣は……」


「あ、あぁ……。彼は苦労するだろうなあ……。鉄道だけでも予算編成は膨大だろうに、そこへ軍事予算編成もとなると……」


「過労で倒れそうだな。マーチス侯爵、今度彼を労ってやらねばな」


「違いない」


「自分は宮内大臣で良かったですよ。それでも仕事は増えるでしょうが、なに、財務大臣の事を思えば」


「そうだな」


「まったくもってだ」


 外務、軍事、宮内の三大臣はこの場にいない財務大臣に対して同情を浮かべていた。

 まだ見ぬ財務大臣さん。すみません、これからむちゃくちゃ苦労をかけます……。だけど、これも国の為なので……。

 改革案の説明中は緊迫した雰囲気だったけれど、国王陛下が許諾した事により幾分かは場の空気は緩んでいた。

 その陛下は三大臣の話に耳を傾けてから口を開く。


「財務大臣へは余も直々に言うておく。さて、アカツキよ。本改革案であるが想定される予算が大規模になる為、流石に余の一声のみで許すには事が大き過ぎる。故にA号改革案は余と大臣級で推進を前提に協議、魔人の件は来る時まで伏せねばならぬ故に真っ当な理由を立てた上で議会にも議題として出す。全土を巻き込む改革案である。以上の手順を経るが構わぬか」


「問題ありません、陛下。波風が立たないよう配慮頂き、ありがとうございます」


「よいよい。そちが我が国を本気で思うておることはよう伝わった。であるのならば、有能な臣下に応えるのも余の務めよ」


 国王陛下は期待の眼差しを向けつつ、ここで初めて緩やかな微笑みを見せた。その表情は明らかに僕を評価しているもので、国王陛下の僕への認識は僕が思ったよりも予想以上に良さそうだった。

 なので、僕も微笑んで言う。


「陛下のご寛大な心に、私は大変嬉しく思います。同時に今後はより一層励まねばと決心致しました」


「く、くくくっ。はっはっはっ!まったく、可憐な顔をしておうて腹の中にとんでもないものを潜ませておったものよ!実はの、余はもう七十も過ぎたというに久しぶりに胸が高鳴ってしもうたわ!鉄道の一挙敷設、最新鋭武器の更新だけでなく情報や兵站にまで手をつける大胆なその姿勢。しかれども組み立てられた案はいずれも緻密。このようなモノを目の前で語られて心踊らぬわけなかろうて!」


 国王陛下は急に高笑いを始めたかと思うと、今度はまるで夢追う少年のように瞳を輝かせて語る。

 え、国王陛下ってこんな性格なの?謁見の間に現れてさっきまでの雰囲気とはまるで違うよ?

 僕は少しだけ戸惑っていると、隣にいたお爺様がそっと耳打ちをしてくれた。


「陛下は昔からああじゃよ。普段は威厳に満ちておるがの、自身の興味に惹かれた物事を前にするとまるで青少年のようになるんじゃ。ああなるともう止められん。良い癖であり、悪い癖、かのお……。じゃからこそ、先進的な視点で国を導けるんじゃけどな」


「な、なるほど……」


 僕はお爺様の話を聞いて納得する。国王陛下が只者ではないのは確かなようで、一癖も二癖もある人というのも理解した。まあ、そうじゃなきゃ産業革命にも興味を示さないよね。

 僕がお爺様と密かに会話をしていると、国王陛下は瞳の輝きそのままに僕へ話しかけてきた。


「のう、アカツキよ」


「なんでありましょうか、国王陛下」


「よもやこれ程までの傑物とは思わなんだぞ。恐らく、そちほどの閃きと二歩も三歩も進んだ視点を持つものはそち以外にはおらぬだろう。余は将来が楽しみな臣下を持てて嬉しく思うぞ。ちなみにだが、今幾つだ?」


「歳、ですか?今は二十二、今年で二十三になります」


「まだ二十二か!そうか、そうであったな。若さゆえの発想であろうが、それだけでは説明出来ぬほどの卓越した思考を持っておる。そち、本当に二十二か?」


 国王陛下は悪戯心と冗談を込めて笑いながら僕に言う。

 すみません、前世含めると二十二ではないですね。とはとてもじゃないけど言えないので、僕は微笑みを崩さないまま。


「年齢に偽りはございません、陛下。この外見ゆえ、よく年齢どころか性別まで間違われることまでございますがれっきとした成人の男であります」


「はっはっはっ!余を前にして愉快な冗談まで言えるとは、気に入った!まっこと気に入った!アカツキ・ノースロードよ。そちがまとめたA号計画、必ず成功させることを余が保証しよう」


「はっ!感謝の極みにございます!」


「うむ、うむ。良い面構えをしておる。さて、決まったのであれば外務、軍部、宮内大臣よ。すぐに行動を開始せよ。宮内大臣は予定の調整をし、極力早く大臣級を集めよ。軍部大臣、軍の現状を会議までに把握せよ。外務大臣も改革遂行の際、他国への対応を視野に入れておけ」


『御意!』


 国王陛下により命令を下された三大臣は礼をする。


「これにて終いとしよう。アカツキ・ノースロード。これからを楽しみにしておるぞ」


「御意!陛下のご期待に沿えるよう努力致します!」


 こうして、陛下との謁見と改革案の提示を案の許諾を陛下から直接得るという最良の形で終えた僕は、王城をお爺様と共に後にした。

 その日はお爺様だけでなく父上や母上にも祝福され、目標への第一歩は順調な滑り出しを迎えた。

 それから二日後。しばらくは王都滞在となった僕の耳に早速大臣級が集められて会議が開かれた情報が入る。

 さらに一週間後。魔法無線装置を用いて議会の議員に緊急議会招集が告げられた後に議会を開催。

 鉄道敷設は経済にも良い影響を与えるため全会一致で可決。軍改革に関しては急激な遂行に戸惑いの声も上がったけれど、魔人出現は形を変えて魔人が国境周辺で見受けられたという噂になっており、去年から魔物も微増ながら増えている為に不安もあってか過半数可決となった。これで民意にも了解を得たことで、A号改革は勅令にて遂行される改革となり、即日発行された。予算編成は後日行われ、編成までに組織作りを行うという方式を取るみたいだ。

 そして、勅令発行から三日後。つまり、謁見から丁度二週間後にあたるこの日。僕は再び国王陛下に呼ばれ謁見の間にいた。しかも今回はお爺様はおらず、大臣も宮内大臣のみという状況。

 そこで伝えられたのは予想外の話であった。


「アカツキ・ノースロード。そちを連合王国軍統合本部・大臣直轄改革特務部部長に任命する。と同時に、相応の階級が必要であろうから現在の少佐から大佐へ特別昇進。さらに改革遂行にあたり妥当な位として王宮伯爵の位も授ける。アカツキよ、余の期待に応え、妖魔共に負けぬ屈強な国へと変えることを期待しておるぞ」


 貴族とはいえ二十二歳で大佐、しかも軍ナンバーツー直轄の部署の部長です。おまけに前世で例えるなら特命担当大臣に匹敵する王宮伯爵の授与。

 …………とんでもない出世になったんじゃないのこれ!?

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