第137話
呆気なく決まった勝負に、野次馬をしに来ていた生徒たちがざわつき始めた。
一年生の中でも五指に入るほど優秀だと言われてきたデミリアとジョージが、天職有りの対人訓練で圧倒的な敗北を見せたのだ。
それに加え、この場で飛鳥の動きを追えたのはほんの一握りだけだろう。ほとんどの生徒たちは、飛鳥が何をやってどうやって勝ったのか分からなかったのだ。
「両者、武器を下ろせ。もう終わりだ」
シュルツ先生の鋭い声が演習場に響き渡ると、飛鳥もデミリアもすぐに武器を仕舞い始める。
デミリアは普通に武器を下ろすだけが、飛鳥は武器をぶらんと下げると同時に剣が僅かに発光し、腕輪として収まったのだ。
テンジが違和感を覚えていたあの腕輪アイテムが、飛鳥の武器だったのだ。収納できる武器というだけで、この演習場は一層とざわざわし始める。
この世界に、ゲームのような収納アイテムなんかはない。
またはオークションなんかに出回ったことも一度もない、という認識が当たり前だ。リオンや千郷のような一部の選ばれた探索師だけが、そういったアイテムを有している。
だから、まだ学生の彼らが飛鳥の収納できる武器に驚くのも無理はなかった。
デミリアは徐にジョージの元へと歩み寄り、解けない糸を力づくで解き始めた。
しかしいくら力を入れても解けないそれに疑問を覚え、すぐに飛鳥へと視線を向ける。
「おい、解けないぞ」
「今やる」
周囲をキョロキョロと見渡していた飛鳥は思い出したように歩き始め、ジョージの体に纏わりついた不気味な何かを一瞬で解き、左手首の腕輪として納めたのであった。
それだけでデミリアは気が付いた。
右腕のアイテムが剣を瞬時に召喚できるアイテムで、左手のやつが捕縛用のアイテムなのだと。ただ、そんな凄いアイテムを学生ごときが一体どこで入手してきたのかまでは分からなかった。
こいつの支援者は一体何者なのだろうか。
そんな思いをここにいる誰もが考えていた。
「おい、飛鳥。お前は何者だ? なぜテンジよりも後にここに来た」
「教えない」
「そうか……なぁ、飛鳥。また今度俺たちと一緒に――」
「それよりテンジがいない」
「あ?」
飛鳥がキョロキョロと周りを見渡していたのは、ずっとテンジを探していたからであった。
今の自分の戦いを見て、未だに力を推し量れていない同じ日本人がどう思うのか知りたかったのだ。
しかし、いくら見渡してもこの演習場にはテンジの姿がなかった。
そこに野次馬していたパインが徐に飛鳥の元へと歩き始め、笑って答えてあげた。
「テンジは用事があるらしくて一足先に早退したよ。この後の案内役は私にやって欲しいって言ってた。私じゃ不満?」
「構わない」
そうは言いつつも、飛鳥の顔は少しだけ不満そうであった。
そして、その隣で話を無視されたデミリアはもっと不満そうな表情をしていた。
この日から、日本から稀に見る鬼才が留学してきたとマジョルカエスクエーラ内で話題になるのであった。
蛇門飛鳥、彼は一体どんな天職を持ち、何者なのだろうか。
そんな憶測があちこちで飛び交い始める。
そして――なぜ飛鳥よりも剣士がさきにマジョルカにやってきたのか。
そんな疑問が学園内に渦巻き始めたのであった。
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