アルムの小さな冒険記

御影イズミ

第1章 成人の儀、そして……

第1話 王女様、成人式です。


 『世界と世界をつなぐ世界』ガルムレイ、第八連合国ロウン。

 剣と魔法溢れるファンタジーな世界の、ひとつの国。そこからこの物語は始まった。



 この日、ロウンでは王女アルム・アルファードの成人の儀が執り行われようとしていた。

 龍の祠へ行き、成人となった証を国の守護竜から受け取るだけの簡単な儀式。さほど難しくはなく、半日もあれば終わるものだ。


 ロウンの領主官邸――事情があり、アルムはいつもここにいる――では、準備が着々と進められていた。


 だと、いうのに。アルムは"いつものように"、"城下町を満喫したくて"、逃げ出そうと画策していた。それらを行うのは儀式の後でと言ったにも関わらず、だ。

 守護騎士であるガルヴァス・オーストルは何があろうと彼女を儀式へと連れて行こうと、策を練った。が、その前にアルムが逃げ出そうとしたので前へ出て阻止。



「アルム様! 今日は成人の儀だって何回言えばわかるんですか!?」


「こんな暑い中で洞窟なんか行きたくないですよーだ! それよりアイス食べたいからいってきまーす!」


「させるかァ!!」



 瞬発力では誰にも負けないと豪語するアルムと、主を捕まえるために瞬発力を鍛えたというガルヴァスのスタートダッシュ。周囲に風が軽く巻き起こり、観葉植物の葉は揺れ、書類が空を舞った。

 このようなやりとりは、ロウンの領主官邸ではよくある光景。とはいえ森に囲まれた屋敷内で起こることなので、見る者といえば領主でありアルムの兄アルゼルガ・アルファードとその守護騎士でありガルヴァスの弟レイヴァン・レゴリオぐらいだが。



「アル様ぁ、今日も兄さんとアルム様がー」


「ああ、うん。レイ、お前も手伝ってこい。今日はさすがに取り逃がしたらまずい」


「はぁい、わかりましたぁ」



 てってこてってこ、レイヴァンも共にアルムを捕まえようと屋敷内を回る。

 そんな動きで本当に捕まえられるのか? とアルが心配した矢先、レイヴァンの身体がまるで弾かれたように駆け出す。どうやらアルムを見つけたらしい。


 レイヴァンはぽや~っとした雰囲気が強い騎士だが、その実力は世界最強と称されるガルヴァスと同等の実力を持つ。能ある鷹は爪を隠すという言葉が非常によく似合う男だ。

 故に、その柔らかい雰囲気で油断させておいてアルムを捕まえることなんてよくあること。最近はそんな雰囲気を出すことはなかったのだが、アルに言われたとおりに今日が成人の儀ということもあってレイヴァンも本気になったようだ。



「はい、捕まえましたぁ」


「わーーん! 最近そんな雰囲気見せてなかったのにーー!!」


「えへへぇ、残念でしたぁ。今日は流石に逃せないんですよ~」



 にこにことした笑顔のまま、レイヴァンはガルヴァスにアルムを渡す。その間にも頑張って逃げ出そうとしていたが、レイヴァンはアルムの動きを注視していたため予測して予防線を張っていたため逃げることが出来なかった。

 大きくため息を付いたガルヴァスは、今日がどんな日なのかをコンコンと説明。アルムが成人の儀を終えることが出来なければ、守護龍の加護の消滅もありえる故にしっかりと言い聞かせた。


 そんなことまで起こるのかと、ちょっぴりびっくりしているアルム。彼女もガルヴァスも知らないが、アルムが成人の儀を受けることがなければ土地の魔力の減衰が起こり得るため、何が何でも受けなければロウンという国が危ないのだ。



「むぅ……、わかったよぅ……」


「儀式が終わりましたら、後は自由にして構いませんから」


「ホント!? 城下町に行ってきてもいい!?」


「見届人が良ければ、ですがね」


「見届人?」



 見届人とは、儀式の行く末を見守る者……というのは名ばかりで、実際は護衛のようなもの。今回の見届人はアルムという重要人物なだけあって、アルが1番信頼をおいている人物にお願いしたという。


 一体誰だろう。胸を躍らせるアルムの下に、その見届人がやってきた。



「よっす、アルム。久しぶり!」


「…………」



 アルが声をかけていた見届人は従兄弟のイサム・ロックハート。成人の儀の重要性をよく知っており、尚且戦闘技術に長けた者でなければ見届人は務まらないとのことで彼が選ばれたそうだ。

 しかしアルムはもう1人の従兄弟が来ると信じ切っていたようで、首が少しずつ傾いていった。何故イサム兄ちゃんがいるのだろう、と。



「いや、俺が今回の見届人だからな? イズミはリイの守護騎士だから来れないんだぞ?」


「えー……リイ姉さんだったら遠慮なく行ってこい! って言いそうな気もするんだけど……」


「それは一応打診した。が、ちょっと面倒事が起きてるから無理というのが彼女の返答でな。仕方なくイサムにお願いしたんだ」


「うーん、そっかぁ……」



 もう1人の従兄弟、イズミ・キサラギ。彼に会えることを心待ちにしていたが、仕事で来れないとなれば仕方がないとすんなり諦めた。代わりに、イサムに街の楽しい場所を沢山教えて貰おうと意気込む。


 儀式に必要なものは特にないため、アルムは出来るだけ身軽な動きができる服に着替える。兄のお下がりでもあるベストを羽織って、準備万端というように玄関へと走った。



「イサム兄ちゃん、早く早く!」


「はいはい。じゃ、アル行ってくるわ」


「ああ、気をつけてな。アルム、あんまり遅くならない内に帰ってきなさいね」


「今日はカルボナーラなんですから、早めに帰ってきてくださいねー」


「はーい!」



 兄であるアルと、守護騎士のガルヴァスに見守られて領主官邸を出発したアルム。それを見守りながら一緒についていくイサム。


 小さな冒険はここから始まりを迎える。

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