私があなたにしたように

この日が来るのが分かっていた。

いや,わたしはこの日が来るのをずっと待ちわびていたのだ。

順番を間違えて完璧なストーリーにはならなかったけれど,別れ際が肝心だ。

完璧なシナリオで最後を終えなければならない。

旦那の方を振り向くと,玄関を背にして向かい合う形になった。



「ずっとあなたのことだけを愛してきた。どれだけ帰りが遅くても,一人寂しい時でも,誰かに言い寄られても,あなたのことだけを見てきた。でも,それは間違ってたみたい。幸い,あなたには大切な人が出来た。これから絶対幸せになれる。私があなたを愛したように,あなたも新しい女の人を愛おしみなさい。それで,お互い幸せになれる。今までありがとう」


そう言ってくるりと踵を返し,私は住み慣れたマンションを後にした。

何か言いかけた旦那に見向きもせず歩を進めた。

優しい声,仕事中に声をかけてくれたこと,私のバカな失敗にも笑ってくれたこと,だしも入れていなかったみそ汁を美味しいと言ってくれたこと・・・・・・

歩きながら走馬灯のように楽しかった日々が思い浮かんできた。


風がひんやりと頬を撫でる。

いつの間にか,涙が頬を伝っていたみたいだ。

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