プロローグ2
「ふぇっふぇっふぇ、まぁ、そう言うと思ったわい。長いこと女神稼業をやっているが、今まで担当した転生者全員イヤがった世界じゃ……じゃあ次は、そうじゃのう……こいつでどうじゃ?」
タブレットの画面をふたたび見せてくれる老婆。
ふたたびのぞき込む僕。
世界名:イグンガラスウィンダラ
異世界の種類:中世ヨーロッパ風
魔王の有無:有
住んでいる種族:人族・亜人族・魔物・竜族・精霊族・獣人族
備考:ワイヴァーンが人口の7倍いる。ワイヴァーンの巣とワイヴァーンの巣の隙間に人間の家を建ててるといってもいいレベルである。ワイヴァーンの機嫌を損ねた次の瞬間には死んでいる。
これもアウトだ。ワイヴァーンが多すぎるし、機嫌を損ねないように生活するのも難しそうだ。あとワイヴァーンともうちょっと距離を取って住居を作ってはどうだろうか……。
「ふぇっふぇっふぇ、気に入らんようじゃのぅ。では、こちらの異世界のワイヴァーンはどうじゃろう?」
なんだかこのお婆さん、ちょっと楽しんでいるような気がする。しかもすでにワイヴァーンとか口走っちゃってる。
それでもタブレットをのぞき込む僕。
世界名:ポールポーンポポポポーン
異世界の種類:人間が文明を築かなかった中世ヨーロッパ風
魔王の有無:無
住んでいる種族:人族・亜人族・魔族・竜族・精霊族
備考:人間のかわりに社会を作ったワイヴァーンが冒険竜ギルドを組織している。洞窟で生活している人間を倒して経験値と報酬を得ている。
ワイヴァーンが主役の世界になっちゃってるじゃないか……。あと世界の名前が適当過ぎるのが気になる。ワイヴァーンの言語だろうか……。
「おば……女神さま、なんかさっきからワイヴァーンづくしだと思うんですけど、もうちょっと良いのないですか」
「ふぅむ……良いのと言っても、ここ10年の異世界転生者急増の影響で、すでに良いところはあらかた取られてしまっておるからのぅ。もう数年早く死んでくれたらもうちょい選べたんじゃが」
お婆さんの説明によるとひとつの異世界には転生者の上限があるらしい。
タブレット画面をよく見ると『ワイヴァーンのやばい世界のみ表示する』というチェックボックスにチェックが入っている。
なんでこんなワイヴァーン推しなんだ……。
タップしてチェックを外すと画面が自動的に再読み込みされ、さらに多くの異世界が表示される。
説明書きの文字が薄い異世界がすでに転生者の上限を迎えてしまったところだろうか。
ちょっと興味があるので、すでに文字が薄くなっている異世界の情報を見せてもらうことにした。
世界名:テスライード
異世界の種類:古代魔法王国の遺産が残る中世ヨーロッパ風
魔王の有無:有
住んでいる種族:人族・亜人族・魔物・魔族・竜族・精霊族・有翼人族
備考:古代魔法王国時代、魔王は封印された。しかし魔王は封印を破り、ふたたび世に魔物を放ち、配下の魔族を生み出し、世の平和を乱した。魔王を打ち破れるのはカルヴァーン神殿に安置されている聖剣トルヴァキアを抜くことができる勇者のみ。火の女神の末裔である王女カレンは召喚の儀を執り行い地球から勇者となる者を呼び寄せる。聖火王都フレイアードを旅立つ勇者とカレン。まずは水・風・土の女神の末裔を集め、カルヴァーン神殿を目指すこととなる。
「この世界はかなり初期の転生者が選択してしまったのう。25年も前じゃ」
たしかにこれは真っ先に埋まりそうだ。すごく王道だし。僕も小中学生のころにはこんな妄想をしたことがある。
けれど、仮に運よくこの世界が選択できても、僕ははたして選んだだろうか……。
そもそも僕は戦闘とか向いていないタイプだ。運動音痴を自覚している。具体的にいうと、枝の先にとまったトンボの目の前で周到に指を回してからつかまえようとしても逃げられてしまうくらい運動が苦手だ。
チートスキルや聖剣なんか与えられたところで、冒険者として活躍できるとは到底思えない。
「できれば戦闘とかしないですむタイプの異世界でお願いしたいんだけど、ありますかね……?」
お婆さんは『転生可能な世界のみ表示する』にチェックを入れて再読み込みした。そんな条件が設定できるなら、最初っからそれでいいんだが……。
お婆さんは慣れた手つきで画面をスクロール。良い感じに戦闘を避けられそうな世界をさがしてくれている。
タブレット上で上下させていた指先がとまった。
するとお婆さんはなにやらニヤニヤし始めた。なんだか嫌な予感がするが……。
「オマエさんまだ清いカラダじゃろ? ここなんかどうじゃ、若い男には天国じゃろ?」
世界名:グレーリーア
異世界の種類:中世ヨーロッパ風
魔王の有無:無
住んでいる種族:人族(女)・亜人族(女)・精霊族(女)・獣人族(女)・天使族(女)・淫魔族(女)・女神
備考:男が絶滅してしまったので男が転生すれば無条件でエッチを求められる世界。すべての種族は美少女しか生まれず、転生の際には自分も美少年に変化する。エッチがお仕事なので他のすべては美少女たちが面倒を見てくれるし、全員が優しくしてくれる。特にエッチが初めての人にはすごく優しくしてくれる。エロティック魔術が発達しているため、何度性行為をしても疲れない。
「お、おおあおおおおおおおおおおおお婆さんっ!! こ、こここここここここ、これはっ!! これはっ!!」
思わず声が上ずってしまった!
なんだこの世界は!? まるで18歳未満は購入できない漫画みたいじゃないか!
「どうじゃ、ドスケベ天国じゃろ? しかし驚いたのぅ。こんな入荷即完売の優良物件がまだ残っておったとは、万に一つもないレベルの奇跡じゃな。あとお婆さんじゃなくって女神じゃ」
「女神さま! ここがいいです!! ドスケベ天国でお願いします!!」
「ふぇっふぇっふぇ、では決まりじゃな。転生特典の武器的なものとかスキル的なものとかなにがいいかな?」
「大丈夫です! 奇跡のドスケベなんですから、これ以上何も望まないです! はやく! はやく!!」
はっきり言ってドスケベ天国でドスケベることしか考えていない。一刻もはやくドスケベな風に包まれ、ドスケベな匂いをかぎ、エルフや獣耳の女の子とドスケベりたい!
「では里中弘樹よ、魔法陣を出現させるぞい。そうすれば体は光に包まれ、異世界へと転生となる」
僕はお婆さんから少し距離をとって立つ。
お婆さんはタブレットの画面をタップし、その指を僕に向けた。
……………………………………………………………………………………。
何も起こらない。魔法陣も出ないし光に包まれもしない。
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