舞台裏・後半<グレイ視点>
(エレノアさん、よくやってくれた。……君はやはり、そうなのか)
山中を高速移動するグレイは、抱く想いと共に、遠くに見えるエレノアの居る監視塔を一度だけ振り返った。
エレノアの持つ桁違いの魔力と
今作戦で自らは
そして怪我により、戦闘の継続が困難となった民兵がたちまち全快する様子が何度も目に入った。最初は数で勝る
エレノアの考案した戦術は
風魔法の助力により、全力で追跡を行っていたグレイは、ついに目標に追い付くと、一〇メートルはある高い樹の上から跳躍すると、地面に着地した。
「……やっと追い付いた。逃げ足が遅くて助かったよ」
グレイの目の前には
この早期離脱は剣王国の将であれば許されない行為ではあるが、
既にエレノアの光魔法の射程範囲外まで来てしまっていた。グレイにとっても、ここは安全圏ではない。
【……貴様が、村の指揮官か】
「……人語を話せたのか。
グレイは普段見せないような口汚い言葉で罵ると、目を細めて笑った。
【良く聞け人間……必ず再起し、逆襲する。貴様は、ここで両断】
「少し黙ってくれ」
グレイは
「先程から、
◇
数合に渡る競り合いの末、グレイはじりじりと後退を強いられていた。用いていた得物が強化された魔法のロングソードでなければ、刃は巨大な両手剣により、刃こぼれと共にへし折られていただろう。
『脆弱だ、所詮貴様も、ただの人間』
グレイの扱う剣は長さ一メートル程のロングソードである。決して短い得物ではなかったが、
(この図体で剣速は軽戦士そのものか。──父上や兄上には及ばないが、ここまでの剛剣使いはそういない)
グレイは自らの未熟を悟り、その端整な表情をわずかに歪めた。剣の技術では勝っていたが、それでも押し負けてしまうのは、圧倒的な腕力と一メートルもの射程が大きい。並みの腕力の人間なら攻撃速度で不利を受ける大剣も、
そして隙を見せれば、一撃で持っていかれかねない両手剣が、グレイの身体ギリギリをかすめていった。宣言通り、一瞬でも油断すれば胴体ごと両断されかねない。将としては臆病だったが、一個の武人としては紛れもない強敵だった。
(手加減は出来ないか。──仕方ない)
グレイは剣を鞘に収め、居合の構えを取った。
【馬鹿め、小細工など、通用するか!】
一瞬だけ早く振り抜かれたグレイのロングソードの刃を、
勝負は決した。グレイの深く踏み込んだ間合いでは、もはや大剣をかわしきる事は不可能のように思えた。
『
その呟きと共に、抜刀したグレイのロングソードの剣先には渦巻く風の刃が形成され、三メートル程の太刀に変貌を遂げていた。
間延びした風の斬撃が、
グレイは剣を鞘に収め、素早く両手を突き出す。
『
グレイの手から冷気が漂うと共に、馬上槍のような氷塊が至近距離から放たれると、
震える手の力が緩み、大剣が転がり落ちる。
「……初見殺しで悪かった。ノーラス村への所業は許さないが、
グレイは神妙な面持ちで、転げまわる
「……趣味ではないが、今から尋問をしなくてはいけない」
【ふざけるな、卑怯な手を!】
「誰の差し金かな。思えば、あれだけの武装や攻城兵器。
【黙れ、黙れ、卑怯者!】
グレイは再び鞘からロングソードを抜くと、
『グギアアアアアア!』
「これ以上させないでくれ。……誰の差し金か。訛りから想像はつくが言質を取りたい」
グレイの問いかけの後、一瞬の間があった。絶望にも似た
やがて裏切る覚悟を決めたのか、
『……サ、サ、さオウこく、……ううううう……グアアアア』
そう言いかけた
(火の呪印……!)
グレイは
その刹那、
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