第121話 英雄

 地下牢に閉じ込められ、途方に暮れていたスキーネだったが十五分と経たないうちに解放されるとわかり、はじめは罠かと疑った。


 牢屋の見張り番をしていた腕の太い大男の前に先ほど部屋で金貨を数えていた男がやってきて、手下に解放を命じたのだ。スキーネ以上に命令を不審がった大男だったが、結局は牢を開けてスキーネを出した。スキーネのトリプルアクションライフルを担いで「ついて来い」と兄貴分の男が言い、スキーネは拘束されることもなく男の後ろを歩いて建物の外へ出る。


 建物すぐ外では三頭の馬が用意されており、うち一頭の馬の頭をポピルが撫でているところだった。


「ポピル!」


「スキーネ! 無事か?」


「ええ」


 スキーネは思わず駆け寄ってポピルに抱き着いた。ポピルの両腕がスキーネの体を包み込んだ途端、安堵感が全身を駆け巡る。そこでスキーネは自分が思っていた以上に不安に陥っていたことに気が付いた。


「時間がない」


 ポピルはスキーネの顔を見つめた。


「俺はこれからモネアの待ち伏せに向かう。スキーネ、君はこの馬に乗って宿へ戻るんだ」


「ナナトたちはどこ?」


「二人とも宿へ向かった。君を救出するためにツアムの姐御あねごを連れてくる計画だったんだ。だがどうしても姐御あねごたちを待てなかった」


「あなたが一人で私を助けにきてくれたの?」


「ああ」


 スキーネは横の馬を見た。


「一人でモネアと戦うつもり? 無茶よ! あなたも聞いたでしょう? あいつには七人の部下だっているのよ」


「心配ない。無事を信じて待っていくれ」


「…いやよ」


 スキーネは振り返り、ヌスタが担いでいたライフルを指差しながら告げた。


「弾を用意してちょうだい。四ミリライフル弾と散弾の二種類。どうせあなたたちなら武器や弾薬を持っているんでしょう? 私もポピルと一緒に向かうわ」


 驚いたヌスタが返答する前に、ポピルがスキーネの両肩に手を置いて振り向かせた。


「スキーネ! 何を言ってるんだ! 宿で話したろう? 君にはご両親が…」


「わかってる。でも恩人には最大限の敬意を払うことが我が家の最も重要な家訓なの。ここであなたを見捨てて、もしものことがったら私はきっとお父様から勘当されるわ。止めても無駄よ。私も行く」


「しかし…」


 スキーネが強い口調で言い放った。


「あなたは英雄になりたいんでしょう? なら私を守りつつモネアを倒すと宣言してみなさい、ポピル・トラスバレン!」

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