第38話 クエスト開始

 九時。

 クエスト開始時刻になってもやはり他のチームは現れず、今年の解禁日はナナトたち三チームが競う形となった。村の村長が各チームの前に立ち、確認の意味も込めた最後の説明を始める。要点をかいつまむと、


 ラシンカ討伐における怪我や事故について、村は一切保証しない。

 討伐した獲物を入れるための麻袋あさぶくろは村が用意する。

 巨大樹の中で麻袋が一杯になった場合には、樹を下りてきて村人が設けたチームごとの捕獲籠ほかくかごに入れることができる。その際、合計で何匹討伐したかを書く証明書を渡すので、樹に戻る前に必ずそれを受け取ること。


であった。


「考えようによっては、イファーク・チームが来ないのはラッキーだったかもしれないわ。もう百メートル以下という制限は取り払われたと考えていいんでしょう?」


 スキーネが銃を確認しながらツアムに尋ねると、ツアムも「そうだな」と返答した。


「一気に樹の上まで登れるわね。ルッカ、私と勝負しない?」


「勝負、ですか?」


「そう。お互い討伐した数を競うの。勝負に勝った方は、相手よりも多く肉を食べることができる。ね、やりましょうよ」


「私は構いませんが」


 一方で、ブーツの靴紐を結んでいたポピルは、いつになく念入りに銃を点検しているツアムを見て声をかける。


姐御あねごも気合が入っているようだな。やっぱりラシンカの肉が食べたいのか?」


「うーん、そうだな。どんな味がするのか気になってはいる」


「へへ、それだけじゃないんだろう? 姐御は男なら誰しもが振り返る美人だが、胸はといえば比較的大きくは…」


 ジャキッとツアムはオートマチックの愛銃を操作して薬室に弾丸を装填した。


「ん? 何か言ったか?」


「いえ何も」


 身の危険を察知したポピルは、二度とこの話題は口にすまいと心に誓った。


「各チーム、スタート位置についてください」


 村長が号令をかけると、準備の整ったチームから順に一列に並んだ。目の前に立つのは高さ二百四十二メートルの巨大樹。風を受けて翻った葉が、朝露を反射してところどころまたたく星のように輝いて見える。


「それでは、クエスト開始!」


 スキーネが銃を握りしめて走り出した。


「念願のCカップ、悲願のDカップ、本願のEカップよ!」

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