第19話 分断
ランプに火を灯しているおかげで、五人が進む道はさながら流れ星が尾を引くように光の一本道となっていく。
「見て見てルッカ! これトパーズじゃない!」
スキーネが足元に転がっている石を拾い上げる。りんごサイズのその石の片面には、まるで夕日を閉じ込めたように橙の輝きを放つ一面が見えた。
「原石のようですね」
「俺がウサギに変化したのはこのあたりだ」
喋るウサギことポピルが言った。
「俺も道案内を務めていた村人もここまでは順調に来れたんだ。おそらくここから呪い場になるんだろう」
「女なら安全だ」
ツアムが言い切った。
「一度発動した呪いは条件を変えられないうえ、同じ場所で新たな呪いを上書きすることもできない。おそらく手強いギルダーの侵入を阻むために成人した男を呪いの対象にしたんだろう。全ての人間を対象にしなかったのは詰めが甘いと思うが何か理由があるのかもしれない」
ツアムはランプの光で足元を照らした。
「これは何だ?」
そこには、小動物を入れる金属製の
「ネズミ捕りの罠じゃないかな? 一度蓋が閉まれば中からは出れない仕組みだし」
「だがカゴの中に餌はない。これじゃただの置物だ。似たものが少し前の道にもあったな」
スキーネがポピルに尋ねた。
「あなたが仕掛けたの?」
「いや、俺がここに来たときにはすでに置かれてあった。たぶん石鼠の数が多くないときに村人が仕掛けておいたんじゃないか?」
ポピルがぐんぐん進んでいくので、四人もその後を追った。しばらくすると。
「アレは!」
ポピルが急に立ち止まって前方を見据えた。ウサギの目を持っていない四人は、ランプをかざして目を凝らす。
ポピルの視線の先には、石鼠が四、五匹かたまって何やら棒のようなものを
「俺の銃!」
慌てた様子で駆け出すポピル。その形相に驚いたのか、石鼠は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ポピルがライフル銃の傍まで来た瞬間、動きが止まった。ポピルの左足が地面にめり込んでいる。
「な、なんだこれ! うわわ!」
見る見るうちにポピルの下の地面が陥没しはじめ、白いウサギ姿が地面に飲み込まれていく。
「ポピル!」
真っ先に駆け出したのはナナトだった。身動き取れないまま地面に吸い込まれていくポピルを助けようと全速力で近づいていく。
「止まれナナト!」
ツアムが声を上げたときは遅かった。ウサギの軽い体重によってゆっくり沈みつつあった地面は、ナナトの体重を受けると底が抜けたように一気に陥没する。
ナナトはランプを放り出してウサギ・ポピルの手を掴むと、もと来た道の地面に這いつくばった。大きな音と共に地面が沈み、坑道の真ん中に穴が空く。その穴の端でナナトは片腕一本でぶら下がっていた。
「ツアム様! 後ろ!」
ルッカの声で後方を振り返ったツアムは舌打ちした。今来た道から石鼠の大群が押し寄せてきている。ツアムは素早く銃を構え、言った。
「迎撃する! スキーネ、ルッカ! 撃て!」
三人の銃が一斉に火を噴き、瞬く間に銃の発射音が坑道内を広がっていく。
片手でぶら下がっていたナナトは、急激に握力が失われていくのを実感した。
「ポピル! そこから僕の体をよじ登ってこれる?」
「あ、ああ」
ポピルはナナトの体にしがみつきながら腰から肩を伝って上の地面へと辿り着いた。
「頑張れ! 今引っ張り上げる!」
ポピルはぶら下がったナナトを両手で引き上げようとする。が、ウサギの力ではどうすることもできない。
「誰か! 手を貸してくれ!」
精一杯の叫び声を耳にしてツアムは顔だけを向けた。ナナトは今にも穴の中へ落ちそうだ。そのとき、銃声に負けない大声を出したのはスキーネだった。
「ルッカ! ナナトを助けて!」
「はい!」
ルッカは構えていたトンファー型ライフル二丁を腰に差すと、疾風のよう速さでナナトへ駆け寄り、地面にうつ伏せに倒れるようにして穴のふちのナナトの手を掴んだ。
「今助けます、ナナト」
「ルッカ…」
自分が邪魔だと判断したウサギ・ポピルはその場から離れる。
そのとき、ルッカが伏せていたちょうど真下の地面にもヒビが割れ、崩れ始めた。
ナナトとルッカは、暗い穴の底へ滑落していく。
間一髪、ポピルだけは難を逃れたものの、見ることしかできなかった状況に地団太を踏んだ。
「くそっ! ツアム殿! 二人が…二人が穴に落ちた!」
「わかってる! とにかく今はこの場を切り抜けるんだ! スキーネ!」
「ええ!」
銃声は間断なく鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます