第10話 桐山さんの発表、再び
先生は、
「それじゃあ、桐山さんの発表の(あ)の図形を折る所に戻すよ。
発表者が動くか、聴き手が動くか。
自分で判断して授業像にあるみんなのわかったを生み出す授業に向けていこう。
それじゃあ、桐山さんの発表から始めます。」
と再度授業が始まった。
桐山さんは、
「(あ)の図形を折ると、重なります。」
と言ってみんなに見せた。
何人か、
「自分もやってみたい。」
と呟いた。
中には動き出そうとしている子もいる。
それを見た桐山さんは、
「試したい人、ちょっと待って。
あと一言で発表が終わるから、そうしたら、試してみる時間とるから、聞いて。」
と言って動き出した子達を見た。
動き出した子達も、桐山さんの提案を受け、頷いている。
図形を持ったままの子もいて、隣の子に
「図形は離す。」
と注意されていた。
みんなが桐山さんの方を向いたとき、
「ありがとう。
こういう風に、折るとぴったり重なる図形を線対称な図形といいます。」
と言った。
さっきも聞いたが、新しい言葉として、線対称な図形という言葉を何人か呟いていた。
それらを聞きながら、桐山さんは、
「それでは、(あ)が本当に、ぴったり重なるか、試してください。」
と言った。
その時、
「ちょっと待って。」
と先生が言った。
何、先生、やっと試しに折れるのに!と俺は思った。
先生は、
「今の凄い!
あと一言で終わるからと時間的なことを示している。
だから、我慢しやすくなったね。
それから、試してみる時間をとると約束している。
待ちやすいね。
発表者、素晴らしい。
そして、聴き手も素晴らしい。
図を手に持っている子を注意し、みんなで桐山さんに注目した。
桐山さん、嬉しかったと思う。
あと、新しい言葉の線対称な図形を何人か呟いていた。
理解しようと思わなけれな、繰り返し言ったりしない。
線対称な図形というつぶやきを聴いた桐山さんは嬉しかったと思うよ。
どう、桐山さん?」
「みんな、聞いてくれたんだと思った。」
「そうだよね、自分の発表を聴いてくれた。
あなたの考えを大切に受け止めてくれた。
自分の考えが伝わったと感じられたよね。
それは、桐山さんが聴き手の反応から感じたみんなでわかる授業の一場面だ。
嬉しかったね。」
という語りかけに、桐山さんはゆっくり一回頷いていた。
「みんなも、後で時間とると言ってくれ、体験して自分理解を深める場を創ってくれた桐山さんの発表をいいなあと思ったんじゃないの?」
と言いながら、みんなを見た。
みんなも頷いている。
「それは、発表者がみんなの方を見て話していた。
そこから、あなたのことを考えているのが伝わってきたでしょ。」
とみんなを見回した。
頷いている子もいた。
俺は、目が合って、何か新鮮な気持ちになったなあと思っていたことに気付いた。
そう、黒板を見て発表する子がいるけど、何か俺達、忘れられている感じだった。
発表者に見られていると、俺に話しかけてくれている気がした。
「みんなのことを思っているのが分かったから、安心できた。
みんなが分かる授業を考えているのが分かるから、嬉しかったと思うよ。」
と言い、柔らかな笑顔をみんなに注いだ。
「発表は、発表者が代表して自分の考えをみんなに伝える行為。
反応は、発表に合わせて自分の理解を伝える行為。
どちらも、相手を意識し大切にしているから、みんながわかる授業に向かっていける。
今日のみんなの動きは、とっても素敵だったよ。」
と満面の笑みをたたえながら言った。
直後、凛とした表情に戻し、
「時間だから、今日の授業のまとめと感想を書いて。
書き終わったら、先生の机の上に出してください。
先に、終わりの挨拶をしましょう。
終わりましょう。」
と一気に話した。
この変わり身の速さは、さすがと言うほかない。
俺は、まとめに折ると重なる図形は線対称な図形。
(あ)の他にも、まだあると書いた。
感想は、お互いに相手を意識することがみんながわかる授業の基なんだと書いた。
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