第9話 石橋君の知的好奇心高まる
困っていると、先生が、石橋君を指名し、
「何か思って、あなたは手を動かしていたよね。」
と聞いた。
石橋君は、
「面白そうだから、やってみたくなった。プリントを折った。」
と言った。
「そう。
桐山さんのやった折ると重なるか調べることを、自分でもやりたくなったんだね。
その気持ち、わかるよ。
不思議だものね。
はっきりしたいという知的好奇心が高まってきたんだよね。
知的好奇心は、学びを深めるのにとっても大切な力となる。
でも、今は、桐山さんの発表の時。
桐山さんの発表を邪魔するのはダメ。」
石橋君に言い含めるように話しながら、みんなを見た。
「こんな時は、どうしたらいいの?」
と石橋君はじめ、みんなに聞いてきた。
困った顔をしている子が多い。
「がまんするんじゃないの?」
と呟く子もいる。
俺もそう思う。
でも、先生の言い方はちょっと違った。
「わかりたいから、やってみたい。
これは、とっても素敵な考え。
この学びの力を失ってほしくはない。
でも、みんなが言うように、今は桐山さんの発表。
順番は守らなければならない。
だから、発表者に頼めばいい。
桐山さん、折ると重なるのが分かったから、俺もやってみたいと。
折ってみる時間をとって、と。」
そう言って、みんなを見た。
何それ?
みんな、そんなこともいいの?という顔をしている。
先生は、
「わかり合うとは、一方通行では深まりません。
わかったことを言ったり、やってみたいことを伝えたりする。
それらによって理解は深まっていきます。
だから、発表は、発表者だけが話すんじゃない。
聴き手も話の流れに合わせて話すことが大事なのです。
それによって、理解は深まり、わかり合うことが出来るんです。
結果、みんなの授業像に近づくんです。」
と言いきった。
俺は、それじゃあ、図形を折ってみたいと言えば良かったのかと思った。
その時、他の人はどんな目で俺を見るんだろう。
勇気いるだろうなあとも思った。
みんなを見回し、言葉が出てこないことを感じた先生は、
「発表は、内容というボールを聴き手に投げたんです。
聴き手は、自分のわかったことや思いを投げ返せばいいんです。
次にボールを投げるのは、発表者です。」
と言った。
「まず、次に折るのをやる時間をとって、と言ってみるよ。
さんはい。」
「次に折るのをやる時間をとって!」
とみんなで言った。
先生は、
「発表者が、折ると重なることをやりながら、言葉で伝えた。
それを受けた聴き手は、重なることが分かり、自分でもやってみたくなったと返した。
さあ、発表者は、どうする?
あなたが発表者なら、どうする?」
桐山さんだけでなく、俺たちを見回しながら先生は、みんなに問いかけた。
俺をはじめ、聴き手だった人は応えられなかった。
唯一、桐山さんが、
「後でみんなにも折ってもらうから、もう少し聞いて、と言う。」
と応えた。
「そうだね。」
と先生は言いながら、
「先に1分時間をとるから、その間に折ってみて。
その後、この続きを話すねと言うのもどう?」
と聞いてきた。
それもいいなあと思っていると、
「とにかく順番をはっきりさせ、みんなで何をやるかわかればいい。
そうすれば、みんなで一緒に考えまとめることができる。」
と話した。
続けて、
「聴き手から要望が出た場合、できれば発表者が対応できると良い。
発表者が言う方法が難しければ、この方法はどう?と私が助言します。
勿論、先生、どうする?と聞いてくれれば、すぐアドバイスをするよ。
だから、発表者と聴き手のキャッチボールを活発にしていってください。」
とまとめ、みんなを見た。
なるほどねえ。
でも、今まで、発表の途中で試しにやってみたいなんて言ったことないなあ。
発表者も試しに1分間挑戦してくださいなんて、先生みたい。
こんなこと、やったことないないけど、自分たちが主役みたいと思えた。
何か、授業が愉しいと思えニコニコしてきた。
強張っていたみんなの顔もだんだん笑顔になり、柔らかくなっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます