転身ガールの苦悩
風子
第1話
アスファルトに雨音がひびく。いくら、梅雨とはいえ、連日のように続く雨模様にうんざりしていた。
教室は朝から、高校生らしい青春じみた、にぎやかさであふれていた。
私はいつものごとく、窓際の一番後ろの席で、いつメン3人で話していた。この日はあやめの恋バナが熱を帯びていた。
「でさ、この前、別れた元カレから久しぶりにLINEが来たわけよ。もう、新しく彼女ができたらしいんだけど」
「やたらと束縛が激しかった例の元カレだよね?」
真緒が合いの手をいれた。
「そそ。そのLINEが問題なわけよ。動画が添えられてたんだけどさ」
あやめがスマホをとりだして、私と真緒に例の動画を見せた。
その動画には、プリクラやらスニーカーを破損する、あやめの元カレの姿があった。それらは、彼と彼女がラブラブであった時の記念品であった。
「なんなのこれ?」と真緒が呆れ顔で尋ねた。
「元カレいわく、彼女に言われてやったとのことなんだけど」
「彼氏、しっかり飼い慣らされてるわけか。それにしてもキモイわね。栞もそう思わない?」
真緒にふられた私は「そうね」とだけ、返した。
私は二人には気付かれないようにため息をつき、そっと、廊下側に座っている蓮沼に目をやった。
じょじょに雨脚は強くなっていき、気づけば窓にふきつけていた。
蓮沼は今日も相変わらず、推しである「ブラックシャドー」のなこちゃんのワンショットチェキを眺めていた。ブラックシャドーはいわゆる地下アイドルで、なこちゃんは天然担当であった。
場所を選ばず、平然と推しに没頭できるのが蓮沼であった。むろん、粗暴な男子たちにからかわれていたが、彼が動じることはなかった。蓮沼はどこまでも強靭であった。
彼の推す、なこちゃんは私自身にも無関係ではなかった。なこちゃんは私の中学生活そのものであった。
陰キャで腐女子。それが中学時代の私であった。
ブラックシャドーのライブやらコミケにも、しげく通った。蓮沼とは、ライブ会場で、年齢も近しいということもあり、顔なじみであった。
とはいえ、中学時代の同級生達からは、オタクであることを、からかわれ、風当たりは強かった。じょじょに自分の内面は荒んでいった。悲鳴とは違った、疲労感にも似たものが私に決断させた。
美容院などで見た目を整え、雑誌やらネットなどでファッションなどの知識を蓄え、陽キャへの転身をはかったのであった。そして、中学時代の同級生がいない、遠方の高校をわざと選んで進学したのであった。
入学式で蓮沼の姿を見かけた時は驚いた。けれども彼は私に声ひとつかけてこなかった。どうやら、彼は私の転身の心意を瞬時に見抜いたらしかった。
雨模様を確認する蓮沼の視線が、私とぶつかった。すでに高校生活も3ヶ月目に突入しようとしていた。どうにも息苦しい。なんだか物足りない。
蓮沼は私のことを軽蔑しているのだろうか。
そんな些細な疑問が私を、とらえて離さないのであった。
転身ガールの苦悩 風子 @yuu1204
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