第182話『黄泉の国を目指す神々の会・2』
かの世界この世界:182
『黄泉の国を目指す神々の会・2』語り手:テル
歩いていくと言うのか!?
いざ出発という時になって、波打ち際に向かって歩き出すイザナギに驚いた。
「ああ、この世界は生まれたばかりで、交通手段がない。すまんが、歩いて行くしか手がないんだ」
たしかに、オノコロジマはアメノミハシラが太ぶとと突っ立っているだけの島で、海の向こうの陸地はイザナギ・イザナミ二人が産んで間がない裸の土地が黒々と続いているばかり。
所どころに煙が立ち上っているのは、イザナギが切り刻んだ火の神の欠片が燻っているところだ。
ようく見ると、それでも木々の緑が萌えはじめているところがあって、やがては豊かな森林地帯になりそうだが、道らしきものや人里らしきものの気配は無い。
「はてさて……」
ブァルキリアの姫騎士は、岩場の一番高いところに登って腕組みをする。潮風に髪を嬲らせ、彼方の陸地を睨んでこの先の思案……というよりは覚悟をしているんだろう。
歩いていくと言っても、道があるわけではないので、剣を振るって蔦や草を薙ぎ払いながらの強行軍になりそうだ。
「イザナギ、わたし達は空を飛ぶことができる。きみ一人なら背負うなり、ぶら下げるなりして行くことができる。空を飛んでいかないか?」
軽々と岩場から下りてきてヒルデが提案する。うる憶えのわたしでも、黄泉の国がオノコロジマの近くではないことぐらいは分かっている。黄泉の国は日本海側のどこかであったはずだ。当然、海を渡らなければならないし、中国山脈も走破しなければならない。
まず、なにより目の前の海を、飛ぶこともせずに、どうやって渡ると言うのだ?
「歩いて行くんだ」
「「「歩いてえ!?」」」
「そんなに難しいことではないよ」
「いや、難しいだろ」
「というか、不可能だ」
「でも、おもしろそう(^▽^)/」
わたしとヒルデがいぶかる中、ケイト一人が無邪気に目を輝かす。
「そう、面白いよ。右足を出して、それが沈まぬうちに左足を進め、左足が沈まぬうちに右足をという具合に交互に進めて行けば歩いていける!」
「うん、やってみよう!」
「ま、待て。仮に歩くとしても、事前にルートを確認しておかないか」
せっかく奮い立たせた覚悟をくじかれて、それでもヒルデは自分が仕切らなければならないと我々の顔を見る。
「そうね、ケイト、そこの木の枝を拾ってちょうだい」
「うん、どうぞ」
「えと……オノコロジマがここだから……」
わたしは砂浜に木の枝で、おおよその西日本の地図を描いた。オノコロジマは淡路島の東に想定されているはずだ。
「なるほど、これがわたしがイザナミと産んだ国なのか……」
「ああ、地理苦手だから、だいたいの位置関係が分かる程度にしか描けないんだけどね(^_^;)」
「海を三回渡らなければならないのだな……」
元来が北欧の戦乙女、地図に目標を記すと目が輝き始める。
「淡路島に渡って西に進んで、次の海を渡ると四国。たぶん鳴門市のあたりに着くと思う。そこからは右手に海を見ながら……高松の向こうあたりから瀬戸内海を渡って……岡山かな?」
「あ、そのあたりまで行けば、分かると思う。黄泉の国は負のオーラがハンパではないから、おそらくは、そのオーラが空まで立ち上って目印になると思う」
「よし、じゃあ、とにかく出発しよう!」
自慢のエクスカリバーを抜くと、ヒルデは西の空を指した。
ボワ!
一瞬で、我々の前方に『黄泉の国を目指す神々の会』の旗が風をはらんではためいた!
☆ 主な登場人物
―― この世界 ――
• 寺井光子 二年生 この長い物語の主人公
• 二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
• 中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
• 志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
―― かの世界 ――
• テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
• ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
• ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
• タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
• タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
• ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
• ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
• ペギー 荒れ地の万屋
• イザナギ 始まりの男神
• イザナミ 始まりの女神
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