第141話『絶体絶命!』
かの世界この世界:141
『絶体絶命!』語り手:タングリス
マーメイド号の最高速度は十五ノットでしかない。
パラノキアの巡洋艦と融合したクリーチャーは三十三ノットで迫って来る!
三十三ノットは巡洋艦の最高速度だ。このままではすぐに追いつかれる。
前回の戦いでは、かろうじて勝てたが。今度の本体はクリーチャー、乗っている船は一万トンを超えるシュネーヴィットヘンではなくて二百トンそこそこのフェリーボートのマーメイド号なのだ。
まっすぐ突っ込まれてくると、全速力で逃げても相対速度十八ノット(時速三十二キロ)で追われることになる。サッカーのフォワードが全速で小学生を追い回すようなものだ。
できることなら戦いたくないが、戦闘配置だけはとっておいた方がいいだろう。
「テル、戦闘配置だ!」
「もう完了している!」
デッキの四号は、クリーチャーに向けて砲口を指向しているところだ。これまでの戦闘でみんな慣れてきたんだろう。戦闘配置をかけるまでもなく、自分で目的をもって行動できるようになったんだ。
しかし、こんな小さな戦闘集団の技量が上がっても、目の前のクリーチャーに太刀打ちできるものではない。
「姫、逃げることを専一にします。緊急時以外は発砲しないでください!」
――分かってる。操舵は任せた、逃げ切ってくれ!――
ブリッジのスピーカーに姫の声が響く。
クリーチャーは我々を襲うよりも、どう変態していいかを試しているようだ。巡洋艦のパーツを様々に組んでは解していく、
まるで巨大なナメクジがファッションに目覚めてしまったようで、見ようによってはユーモラスでさえある。マーメイドを追いかける方向も、かなりのブレがある。我々を敵だとは認識しきれていないのかもしれない。追ってくるのは、動物的というかクリーチャーの習性なのだろう。時間が停まった洋上では、動いているものは当のクリーチャーの他は、我々のマーメイド号だけなのだ。
ニ十分ほどもすると、クリーチャーは空飛ぶクジラのような姿に固定され、ゆっくりと海面を離れ、それ以上変異することをやめた。
――タングリス、間合いを取ってくれ!――
直ぐに姫が反応する。気持ちは分かる。空を飛ばれては四号の主砲を最大仰角でかけても狙えないのだ。
しかし、十五ノットの速度ではいかんともしがたい!
悪いことに、変態し終えたクリーチャーはマーメイド号の我々を指向し始めた。
もう、出来ることは、奴の指向とタイミングを見計らって突っ込まれる寸前に舵を切るしかない。
二度は躱したが、次は危ない……舵輪を握りなおす……今だ!
奴の微妙な姿勢変化に進路予測をして、その反対方向に舵を切る!
しまった!
敵は右に回るフリをしたが、鼻づらを左に向けると、体をよじってきれいなカーブを描いて突っ込んでくる。
奴に読まれていたのだ、尻尾を勢いよく振ってさらに進路を修正すると、真っ直ぐに迫ってきた!
絶体絶命!
まるでモビーディックに迫られたキャッチャーボートだ。
このままエイハブ船長のように海底に引きずり込まれるのか!?
ザーーーーー!
ドゴーーーン!
一瞬黒い影が過り、砂を噛んだ時のような音が響いたかと思うと、マーメイド号の左舷に大きな水柱が立った!
今のはなんだ!?
首を巡らすと、四時の方角、高さ二百メートルのあたりに、抜剣した剣を緩やかに下段に構える姿があった!
わたしの本来の上司にして、辺境軍総司令官トール元帥の雄々しき姿が!
☆ ステータス
HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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