第114話『落花狼藉の大騒ぎ』


かの世界この世界:114


『落花狼藉の大騒ぎ』語り手:テル       






 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ




 太宰治の『右大臣実朝』の一節だと思うのだが、太宰治が何者で右大臣も実朝もよく分からない。どこか夢の中で出てきた言葉なのかもしれないが、目の前で繰り広げられている光景は、まさに、この言葉通りだ。


「おかえり、ヤコブ! しばらく見ないうちにいい男になって! お母さん嬉しいよーーーー!」


「おかえり!」「久しぶりいい!」「やあ!」「ウッス!」「ほんとにおかえり!」「おかえり! グラス持って!」「グラスこっち!」「あーーもーージッとしてらんない!」「歓迎のポルカだ!」「サルサだ!」「ヨサコイだ!」「ヤコブを真ん中に!」「となりはあたし!」「ずるい!」「あんた小学校でもとなりだったじゃん!」「となりはあんた!」「膝の上でもいいよお!」「まずは胴上げだ!」「そーだそーだ、胴上げだ!」


 なんだか分からないうちに胴上げになり、阪神タイガースの優勝みたいになった。お調子者が川に飛び込む代わりに片っ端からシャンパンやビールの栓を抜いてアルコールの雨を降らす。


 って、阪神タイガースってなんだ? 時々分からない言葉が浮かんでくる……。


 子どもたちも、一瞬四号に目を輝かせるが、大人たちの乱痴気騒ぎに載ったり載せられたりで飛んだり跳ねたりしている。


 胴上げを八回もやられて「ちょっと助けてえ!」とヤコブがこちらも見るものだから、舞い上がった参加者がいっせいにこちらを見た!


「次は、あんたらだ!」


 数十人の矛先が、四号の乗員に向かった。


 ロキとポチはノリノリで喜んだが、あとは軍服は着ていても女だ。あちこち触られまくりの胴上げには抵抗がある。


「ウ」「キャ!」「グエ!」「ウヒョー!」「フグ!」「ギョエ!」


 為すすべがない。


「え、あ、ちょと……」


「ボタン外さないでえ!」


「ベルトおおお!」


 胴上げされながら服を脱がされていく。


 もう身を任せろ。


 横を見ると、ほとんど下着だけにされてしまったタングリスが、どこか楽しんでる顔でウィンクしている。


 えーい、ままよ!


 身体の力を抜くと、あっという間に裸にされて、恥ずかしがる間も有らばこそ、別の衣装に着替えさせられた。




 もう一回、カンパーーーイ!!




 参加者と同じヘルムの民族衣装に着替えさせられて、飲んだくれたちの仲間入りをさせられてしまった。


 それから、いっしょにポルカを踊ったり、何十枚も写真を撮ったり撮られたり、食べたり乾杯したり歌ったり。落花狼藉の大騒ぎの渦になった。


 さすがに酔っぱらって尻餅を突いたところにヒルデが倒れ込んできて意識がなくなった。


 


 まるで玉砕した部隊の中で、たった一人生き残ったような感じで目が覚めた。


 ウンコラショ……っと、ヒルデのお尻をどかせ、脚にまとわりつくケイトを引き剥がして首を巡らす。


 ヒソヒソ ヒソヒソ……


 二つ向こうのテーブルで密かに話し合う声が聞こえてきた……。




 


☆ ステータス


 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)


 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)


 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)


 白魔法: ケイト(ケアルラ) 


 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 




 


 

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