第73話『プリンツェシン・ローゼンの御業』


かの世界この世界:73     


『プリンツェシン・ローゼンの御業』    





 フラワーポッドは祭りの参加者が見えるように、式台の上に円形に立てかけられている。




 プリンツェシン・ローゼンのブリュンヒルデは悠然と剪定鋏を構えてポッドの周りを周り始めた。


 わたしたちには見えないが、ブリュンヒルデには司祭が示したバラが黒く見えているのだ。


 チョキン


 一つ剪定するごとに音楽隊の小さなシンバルが鳴らされ、広場の端の見物人にも見えるようになっている。


 選定されたバラは、そういう仕掛けなのか悪しきもの性なのか、旋回しながら二メートルほど空中に舞い上がり、旋回の遠心力によってハラハラと花弁に分離する。分離した花弁は一瞬輝いて消滅し、消滅と同時にトライアングルがチリリンと可愛く鳴らされる。


 シリンダーとかのクリーチャーを見慣れているので、花が命あるもののごとく飛翔しようが飛散しようが驚くもんじゃないのだが、儀式の雰囲気もあって、とてもファンタジーなときめきを覚える。


「なかなか、いい祭りだな」


 タングリスが、いつもの軍服姿なら相応しいぶっきらぼうさで呟く。しかし、いまのタングリスは花の妖精と見紛うばかりのピンクのドレスだ。髪も相応しくドレスアップし、同性のわたしが見てもドッキリするほどに美しい。そのギャップが面白く、クスリと笑ってしまう。


「テルだってきれいだよ」


 横で、ケイトがニヤニヤ。そのケイトもラノベのヒロインが務まりそうなくらいにイカシテいる。


「おまえだって」


 ロキに言われてアタフタ。


 肩にとまったポチが面白そうに丸まっちい体を揺すっている。




 オーーーーーーーー!




 見物人のどよめきが上がる。


 なんと、剪定するたびに、残りのバラがムクムクと大きくなるのだ。それも、ポッドのバラだけでなく広場から見渡せるバラの全てが身を震わせながら肥えていく!


 そして、ブリュンヒルデが最後の一輪を選定した時には、ブルンと音がして町中の幾万幾百万のバラがキャベツほどの大きさになった!


「これがプリンツェシン・ローゼンの御業なのです!」


「「「「「「「「「「オーーーーーーーー!」」」」」」」」」」


 司祭が宣言し、広場中の人たちが感動の歓声を上げた。


「ありがとうございます、ブリュンヒルデ殿下! おつきの皆さん! こんなにうまくいった降誕祭は初めてです、このローゼシュタットにもみなさんにも神のご加護があることでしょう!」


「さあ、ローゼンシュタッテンの滞りない成就を祝して飲み明かそう!」


 ミュンツァー町長が宣言すると、広場を取り巻く家々、辻々から大小さまざまなワゴンが繰り出される。ワゴンの上には満たしたビールジョッキが並べられていて、人々がいっせいに飛びつき、町長の「乾杯!」の音頭で、さらに一斉の乾杯になった!


 われわれも、厳しさが予想される旅の前途を忘れ、しばしの酒宴に興じたのだった。


「あ、おまえらノンアルコールな」


 ケイトとロキが持ったジョッキをジンジャーエールに替えてやった。




☆ ステータス


 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 



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