第63話『ペギーとの再会』


かの世界この世界:63     

『ペギーとの再会』     






 ケイトの石化を解いてやると金の針が残り一本になってしまった。



「面倒だが、車外に出る時は必ずゴーグル着用だ。車内でも覗視孔から外を見る時はゴーグルだ。石化しても直しようがないからな」


「メドューサなんて聖戦以来だな」


 タングリスの注意に応えながら、タングニョーストはアクセルを踏む。


 ブルンと身震いして四号は再び走り始めた。


「来るときは、強敵だったがシリンダーと融合体に出会っただけだった。プレパラートとかメスシリンダーだとか、クリーチャーが多すぎないか」


「主神オーディンの力が弱っているのかもしれない、心して進まなければな」


「下手をすれば、また戦争が始まるかもしれない……」


「真っ赤に錆びついてるよ……」


 ペリスコープから先ほどの戦車を見て、ケイトが呟く。わたしも意外だ。メドューサのとは言え、戦車兵のナリで少女は転がり出てきたのだ。当然生きた戦車だと思う。


「メドューサは、廃墟や残骸を依り代にして現れるんだ。戦車そのものは先の聖戦で撃破されたスクラップさ。ムヘン川沿いは激戦地だったから、あちこちに残骸がある」


「あ……変なオバサンが居た」


 ペリスコープを覗いたままロキが呟く。


「オバサン?」


「メドューサか!?」


「違うと思う、ニコニコしていたし、大きな荷物を担いでいた」


「どこにいた?」


「草が少し禿げたとこ」


「タングニョースト、戻ってみてくれ」


「了解」


 グィーーーーーーーン


 四号が遊園地のコーヒーカップのように回れ右をした。超進地旋回というやつだろう、ちょっと目が回る。


 戻ると、そのオバサンは道の真ん中に出てきて陽気に手を振っているではないか。


「あ、ペギーさんだ! 出ていい? いいよね!」「あたしも!」


 ろくに返事も聞かないでブリュンヒルデとケイトが飛び出す。


 そのオバサンは、始りの荒野で店を開いていたペギーだ。


「ペギ―、夜逃げでもするのか?」「重そうだな」


 知り合いらしく、タングリスもハッチを開けた途端に声をかけている。


「行商に出た方が儲かりそうな気がしてね」


「まあ、ちょうどよかった、少しばかり金の針が欲しい」


「おや、あれ以来だけど、あんたらもたくましくなったね。その子は?」


「ああ、わけあって預かってるんだ」


「そうかい、まあ、旅は賑やかな方がいいさね。で、金の針は使いきっちまったのかい」


「ああ、残り一本。ついさっきメドューサのってのに出くわして、その坊主が間近で目を見ちまったんでな」


「メドューサ……やっぱ、復活したんだ(⌒∇⌒)」


「嬉しそうに言うなよ」


「少しは女らしい喋り方をした方がいいよ、ちゃんとしたナリをしたらいい女なのにさ」


「軍人に性別はないよ」


「ああ、トール元帥の副官なんかをしてちゃなあ」


「ポーションも少し欲しいんだ、1000ギルで買えるだけくれ」


「1000ギル? しみったれてるねえ」


「あれから稼いでないんでね」


「ウィンドウ開いてごらんよ、もっと貯まってるはずだよ」


「あ、そんなものがあったな」




 日々のことに追われて、しばらくご無沙汰のウィンドウを開いた。




 HP 2500  MP 1200  所持金 8500ギル




「すごい、いつの間に?」


「ステータスはこまめにチェックしなきゃ。これだけあるなら石化防止の指輪も買っときな、一個1000ギルに負けといてやるわよ。おや、四号に六人も乗ってるんだ、リクライニングシートにして、エキストラシートも付ければ快適になるよ」


「とても、そこまでのギルはないよ」


「消耗品以外はリポ払いにすればいいさ」


「リポ払いってなに?」


 ケイトが身を乗り出す。


「リボ払いみたいなもんじゃないか?」


 前世の知識が蘇る。


「冒険者の予測経験値で組めるローンみたいなもんさ。あんたたちは前途有望だから……10万ギルまでいけるよ」


「え、すごいじゃん!」


「うんうん」


 ロキが目を輝かせ、ケイトがウキウキしてペギーのペースになっていく。


 ロキを除く五人でリポ払いで80000ギルも使わされてしまった。


「あんたには武器も売りつけたかったけど、トールの技物を持っていたんじゃねえ。お、坊主、珍しいもの持ってるじゃないか!」


 ペギーに目を付けられ、ロキは後ずさりする。


「シリンダーの幼体が人に懐くとは珍しい! 売りなよ、20000ギルで引き取るよ!」


「やだ、ポチは売り物じゃねえ!」


「残念、売りたくなったら、いつでも言っとくれ。必要な時、必要な所には現れるからさ。ところで……」




 それから一時間以上喋って、ペギーと別れた。タングリスたちとペギーの話は半分も分からなかったが、互いに情報を交換して有意義であったようだ。


 明日にはノルデン鉄橋に着けそうだ。




 


☆ ステータス(買い物を終えて)


 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 グニ(タングニョースト)トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 グリの相棒 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 



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