第61話『草上のバーベキュー』


かの世界この世界:61     


『草上のバーベキュー』    






 教室ほどの広さに草が刈られている。




 特徴がある。


 ほとんど真円に刈られた草地は絨毯のようで、草の丈は二センチほどしかなくて、腕のいい庭師が精密に刈ったみたいなのだ。


「プレパラートの巣があったんだ」


 砲塔の上、双眼鏡で周囲を見渡しながらタングリスが言う。


「プレパラート?」


「クリーチャーさ。単体では一センチ四方ほどの薄いガラス片にしか見えないんだけど、生き物だ。川岸に巣を作って、蟻のように集団で生活している。多くなりすぎると巣を放棄して、新しい営巣地を求めて移動するんだ。全個体が集合するまで、巣の上を円を描いて飛びまわる。それで草が綺麗に刈り取られるんだ」


「相当鋭利に出来ているんだな……」


「ああ、大型のクリーチャーを集団で襲うことがある」


「そんな奴らの巣の上で休憩して大丈夫なの?」


 首だけハッチからのぞかせたロキが不安そうに言う。


「放棄した巣には戻ってこない」


「タングリス、どのくらい休むんだ?」


「二時間ほど。ここを出たら、一気にノルデン鉄橋を目指します」


「二時間あれば魚が釣れるな」


「釣りをなさるんですか?」


「流刑地じゃ自給自足だった。上手いものだぞ、闇の力で得物を引き寄せ、一気に仕留めるんだ。おまえたちも付いてこい」


「でも、釣り竿とかどうするの?」


 見ると、タングニョーストが四号のアンテナを外している。戦車の装備と言うのは無駄がないようだ。


「バーベキューにするから、用意をしておいてくれ」


「こんな草地で火を使うのか?」


「大丈夫だ、水を撒けば問題ない。念のために石ころで炉を作ってくれていると嬉しい」


「よし、わたしとケイトでやっておこう」


 あっという間に役割分担ができて、魚釣り組と設営組とに分かれた。




 ピピピピ ピピピピ




 ブリュンヒルデのCアラームが鳴りだして、緩みかけた空気が張り詰める。


「北西の方角……そんなに近くはないが」


 いったん降りた砲塔に駆けあがり、タングリスが双眼鏡を構える。


「プレパラートがメスシリンダーを襲っている」


「ほんとうか!?」


「メスシリンダー?」


 シリンダーの一種なのだろうが、初めて聞くクリーチャーだ。


「大型のシリンダーだ、プレパラートとは共存しているはずなんだが……どうやらクリーチャーの間でも異変があるような……」


 瞬間迷ったブリュンヒルデだったが、こちらにはやってこないと踏んで魚釣りに出かけた。


 やがて、目の下五十センチもある魚を二匹釣ってきて、バーベキューが始まった。


 魚の名前を教えてもらったが、みんなで食べているうちに忘れてしまう。


 楽しかったのだ。


 どうやら、六人はいいパーティーになりそうだ。




☆ ステータス


 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 グニ(タングニョースト)トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 グリの相棒 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る