第57話『さらばシュタインドルフ!』


かの世界この世界:57     


『さらばシュタインドルフ!』    






 え、あいつか!?




 ジャンケン勝負は一発で付いた。


 連れて行くなら、子どもながらにイケメンで品行方正なフレイがいいと思った。


 フレイアも女の子なので、少々お転婆でも扱いやすいだろう。それが、わんぱく坊主のロキだ。


 ただのわんぱくなら、まだいい。


 カエルを投げつけてきた首謀者、それも、捕まっても素直に認めずフレイやフレイアのせいにしようとした。


 そういう性格が気に入らない。




 それに、なんでジャンケンなんだ?


 なんだか、院長先生にしてやられた感じがしないでもない。十三人の子どもたちの中から、よりにもよって。


 単に、厄介者のロキを放り出したいから……そう勘ぐってしまうほど、ロキを連れて行くのには気が進まない。


 


 この旅に神のご加護のあらんことを!




 ウダウダ思っているうちに、院長先生とフリッグ先生は送別会の準備を整えてしまった。


「ロキ、みんなに旅立ちのご挨拶をなさい」


「そ、そんなのいいよ……」


「ロキ、元気でね」


「お便りちょうだいね」


「水には気を付けて」


「オネショすんなよ」


「食事の時は、ロキの席に写真を置いとくからね」


「そうだよ、旅に出ても、心は一つだからね」


「いつか帰って来いよ」


「ロキが居なくなってせいせいする……と思ってたのに、寂しいよ」


 最後の言葉はフレイアだ。なにか言おうとするのだが、涙を浮かべてアワアワするばかり。


 いやなガキだと思っていたけど、こいつなりに受け入れられていたんだと、ちょっとだけ目頭が熱くなる。




 ……ロキ!




 感極まってフレイアが抱き付く。すると、他の子どもたちも寄ってきて、泣きながら抱き付いて、モミクチャの団子になった。


「さあ、泣いてばかりいたら出発できなくなるわ。ゲートに並んでお見送りしましょう」


 促された子供たちは、涙をぬぐいながらゲートに並んだ。


「ちょっと待って!」


 フレイアが建物に戻って一分ほどで荷物を作って戻ってきた。


「枕がかわったら寝られないっていうから、枕と着替え。いいでしょ先生?」


「う、うん、構わないわよ」


 先生は、渡すべき荷物を用意していたようだが、フレイアの気持ちを大事にするんだろう、フレイアには見えないように荷物を減らしている。二号よりは大きいと言え四号も狭苦しい戦車だ、荷物は少ない方がいい。


「わたしたちから渡す荷物はこれだけです、よろしくお願いします」


「お預かりします」


 


 旅立ちに四号戦車はピッタリだ。




 砲塔のキューポラだけではなく、側面のハッチ、操縦手と通信手のハッチからも半身を乗り出して、お別れの手を振る。


 ゲートまでと言われた子どもたちは、坂を下って村の境まで付いてきた。


 もう、涙涙でグシャグシャだ。


 ついさっきまでは、このクソガキと思っていたけど、涙と鼻水でヨレヨレになったロキも可愛い。


「さ、ここまでですよ」


 オーディンシュタインの効き目は村はずれの峠までだ。峠のてっぺんで二人の先生は促した。


 五つのハッチから身を乗り出した我々は改めて敬礼。無理な魔法を使ったブリはヘロヘロだったが、なんとか笑顔で手を振っている。


 峠を下ると、道は『く』の字に曲がってしまって孤児院のみんなは見えなくなる。


「全員車内へ、警戒しつつ前進!」


 グリが車長として指示し、車内に収まる。


「ん? ロキ、お前のポケット……」


 ケイトがロキの上着のポケットを指さした。


「え? あ、う、うわー!」


 ポケットの中でグニグニ動くものがあって、ロキはアタフタと上着を脱いで。ハタハタと振る。


「バカ、車内でやるんじゃ……!」


 注意するのが遅かった。


 ポケットの中から転がり出てきたのは、子どもの拳ほどのシリンダーだった。


 とうぜん車内は大騒ぎになるが、もっとビックリした。


「ポ、ポチ!?」


 ロキが、シリンダーを名前で呼んだではないか!


 


☆ ステータス


 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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