第46話『荒ぶるブリュンヒルデ!』
かの世界この世界:46
『荒ぶるブリュンヒルデ!』テル
待てっ!
グリがイグニッションを押そうとした時、凛として制止の声があがった。
それがブリの声だと脳みそが理解するのに数秒を要した。いつもの気まぐれで小学生気分が抜けきれない中坊のようではなかった。凛とした声に瞬時戸惑ったが、身を乗り出して見上げたブリの表情は天晴れヴァルキリアの姫騎士のそれであった。
驚く間もなく、ブリは続ける。
「禍々しいものがやってくるぞ!」
そう続けてペリスコープに食らいつくブリ。
グリもキューポラの八つあるペリスコープに次々と食らいついている。
「「あれは……!?」」
発見の声は同時だ。
「おまえたちも見ろ」
促されて、わたしもケイトとペリスコープを掴んだ。
なんだ、あれは……?
それは、数千個の泡が緩く集合してボンヤリと人型になったものだ。
蚊柱の一匹一匹が蚊ではなく泡粒なのだと言ったら分かるだろうか……それが身の丈五十メートルほどになってやってくるのだ。
「確認だ!」
ブリがキューポラから飛び出し、わたしたちも続いた。
「伏せろ!」
「痛い!」
ボンヤリ出てきたケイトがブリに押さえつけられる。
寝ていた時はケイトと似た者同士に見えたが、文字通り覚醒すると、その差は歴然だ。
「シリンダーが融合しかかっている……」
数秒観察して、ブリが結論を出した。
泡粒に見えたのはシリンダーだった。
一つ一つのシリンダーは融合の中心から逃れようとしているのだが、引力が強すぎて逃れられないロケットのように放物線を描いて引き戻され、少し力の強いものは人工衛星のように融合体の周囲を回っている。引力に逆らって逃げおおせている者は、ほんの僅かだ。
「結合体以上のものになりかかっている」
ムヘンの南半分、ブリと囚人地区を出ようとして散々悩まされたのがシリンダーの結合体だ。
数百のシリンダーが縦に結合して開いた数珠のようになって、次々に襲い掛かって来た。
ブリの結界によって身を隠し、グリとグニが操縦する超重戦車ラーテに助けられた。あの時の結合体の三乗倍も禍々しい。
「逃げます!」
グリが促した。
「いや、成敗する!」
ブリは、スックと立ち上がり、拳を天に突き上げる。
「ブリュンヒルデ姫!」
禁じられたはずの正式な名前で制止するグニ。
「完全に融合してしまっては手に負えなくなるぞ、今なら倒せる!」
ブリのツインテールが光を帯びて生き物のようにのたうちながら融合体目がけて伸びていく!
これまでの戦闘でツインテールの威力は知っているつもりだったが、いま目にしているものは次元が違った。
『中二病でも恋がしたい!』の凸守早苗を思い出したが、その勇姿と威力は遥かに上をいく。
って……なんのことだ? 思い出したのは寺井光子の感性、直ぐに小早川照姫の意識に戻った。
荒々しくうねるそれは、独立したモンスター。ブリは、その手綱を握って制御している荒ぶる神だ!
ブン!!!
ツインテールがパチンコのゴムのようになってブリを打ち出した!
いや、ブリが突出してツインテールを従えたのだ!
融合体は、それに気づいて、体ごとこちらを志向し始めた。
「我々も続こう!」
「はい!」
「おお!」
わたしたち三人も続いてジャンプした!
☆ ステータス
HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト
持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル
装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
グリ(タングリス) トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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