第45話『シリンダー』
かの世界この世界:45
『シリンダー』
異世界から持ち込まれた愛玩動物なんです
「シリンダーは愛玩動物なんですか?」
ハッチの縁に腰を預け、戦い慣れた下士官の余裕でグリは語る。
シュタインドルフまでの道のりは、ほぼムヘン川の南岸を一本道なので、操縦をオートにしてキューポラから上半身を晒しているのである。
ブリとケイトは最初っからエンジンルームの上にドンゴロスを敷いて寝っ転がっている。
四人乗りに改造されているとはいえ、定員三人の二号戦車の中で長時間大人しくしているのは厳しい。
じっさい、ムヘンブルグの北門で出会った前線帰りの二号戦車は同じように砲塔やエンジンルームの上に乗員を載せていた。
二号戦車のエンジン音は、車内にいるとストレスだが、外に出てみると心地よい振動になるので、ブリとケイトは眠ってしまっている。
「トール元帥の平定が落ち着いたころに入植者が見つけて飼い始めたのが最初だと言われています。おそらく始りの荒野に迷い込んだ異世界の動物です。見かけが、なんというか、とても和ませるでしょ」
たしかに、シリンダーはお尻にソックリで、無害であるという条件付きだが、割れ目の奥にある口でブヒブヒ声をたてられては、たいていの人間が笑ってしまうだろう。
「二千年紀に入ってペットとして飼われだしたんですが、野生化したものが牙をむくようになったんです」
「最初から凶暴なわけじゃないんだ……」
「発見されたころは、人懐こい小動物だったんです。でなければペットにはならなかったでしょう」
「人に飼われて、ふたたび野生化することで凶暴になるんだ……なんだか教訓的ですね」
ピピピピピ! ピピピピピ!
車内からアラームが響いた。
「敵性アラームです、車内に!」
「おい、起きろ!」
エンジンルーム上の二人を叩き起こす。
熟睡していた二人を収容するのは大変だったが、なんとか車内に潜る。
「シリンダーの群れですね……」
ドップラーの波形を見て、グリが判断する。
「だったら、やっつけようよ!」
「そーだそーだ!」
お昼寝組は威勢がいい。
「数が多すぎます、身をひそめます」
二号は真地旋回すると川辺に群落する葦の中に突き進む。
小柄な二号は、スッポリと収まって、直上から見られない限り発見ははれないだろう。
シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ
体を表すような鳴き声が、二号の装甲を通しても聞こえてくる。
一つ一つは人を食ったような泣き声なのだが、幾百幾千と集まると、敵意は無いとはいえ、かなりの圧だ。
鳴き声が消えても、念のため十分ほどはエンジンを始動させずに身を潜めた。
☆ ステータス
HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト
持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル
装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
グリ(タングリス) トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます