第13話『ワープ』


かの世界この世界:13


『ワープ』    






 世界の綻び……このわたしが?




 わたしは、ヤックンに告白させないことだけを願っている。


 告白させたら、冴子がブチギレる。


 ブチギレた冴子は鬼になって跳びかかって来て昇降口の階段をもつれ合いながら転げ落ちて、わたしは冴子を殺してしまうんだ。冴子を殺したわたしは旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて死んでしまうんだ。


 それを回避したいために過去に戻っているんだ。


 先輩には悪いけど、自分のためなんだ。世界の綻びと言われても困る。




「旅立たなければ、この半日が無限にループするしかないの。108回ループして分かったわ」




「で、でも、この帰り道に冴子が告白するかもしれないし」


「冴子は、そんな子じゃない」


「知っているでしょ、あの子はヤックンが告白してくれるのでなければ受け入れられないのよ」


 中臣先輩が悲しそうに首を振る。


「で、でも108回もループしているなんて……」


 二人の先輩の言うことを認めれば、なにかとんでもない世界というか段階に足を踏み入れざるを得ない気がして、頑なになる。


「ループしているのよ、今すぐに旅立たなければ!」


「時子」


「ごめん……追い詰めるつもりじゃないの」


「その玉垣の上を見てくれる」


「玉垣……」




 神社の結界を玉垣という、子どもの背丈ほどの石柱の壁には石柱ごとに奉納者と寄付した金額が彫り込まれている。


 鳥居のすぐ横が、最高額の奉納者である地銀の社名……そこから始まって、数えると108番目の玉垣まで小石が置かれていた。




 これは……!?




「思い出した?」


「ループし終わると記憶が無くなるから、帰りに鳥居をくぐるたびに小石を載せておくように暗示をかけたの」


 小石を置く自分の姿がハタハタと蘇る。


「こことは違う世界、わたしたちは『かの世界』と呼んでいるわ」


「三つ子ビルの一つ一つのブロックのように無数の『かの世界』が寄り集まって宇宙とでもいうべきものを作っているの、そのいくつかの『かの世界』がほころび始めているのよ」


「それを修正して来て欲しいの、修正しなければ、三つ子ビルのように、この宇宙全体が崩壊してしまうわ」


「世界の修正だなんて、わたしにはできません。自分の不始末さえ108回かけても直せないのに」


「光子はラノベを書くでしょ? もうノートに何冊もプロットを書き溜めて」


「子どもの頃のメモを含めると、とうに万を超えるくらいのストーリーを」


「その粘りと想像力があれば、きっとできる」


「必ずできるわ」


 すると、コラ画像みたくノートに書き溜めたプロットやストーリーの断片がキラキラと明滅しながら神社の境内を取り巻いて数えきれない流星群のようになった。


 流星群は急速に輪を縮め、先輩とわたしを、ついにはわたしだけを取り巻くようになって、恐ろしくて動けなくなった。




「この世界にも歪みが出始めた」


「もう時間がない、飛んで!」


 二人の先輩がゲームのヒーラーのように私に向けて、勢いよく手をかざした。




 ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!




 とたんに鳥居を中心に風景が渦を巻くように捩れて、ついにはわたし自身もよじれて意識が飛んでしまった。




 

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