第7話『二日後に戻る』
かの世界この世界:07
『二日後に戻る』
そのまま二日後を迎えた。
ヤックンに告白させなかったんだから、冴子も穏やかだ……たぶん。
昇降口への階段を下りていても、冴子に呼び止められることもない。
従って、昇降口で乱闘になることもなく、不可抗力ことは言え、手にした傘で冴子を一突きに殺してしまうこともない。
制服のブラウスを朱に染めて逃げ回った末に旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて頭蓋を柘榴のように割って脳みそをぶちまけて死ぬこともない。
「このまま神社行く?」
終礼が終わると廊下で冴子が待っている。
お祭りの準備と巫女神楽の稽古が佳境に入って来たのだ。三回目の巫女神楽とあって、冴子もわたしもWKだ。
WK、つまり期待と緊張。
神社の歴史上も三回の巫女神楽をやった例は江戸時代に一度あったきりだそうだ。
予定していた巫女が病気とか事故とかじゃなくて、あまりに美しい巫女だったので、神さまも――十八になるまで務めさせよ――とご託宣された。当時は一人舞の神楽を三年続けたそうだ。
わたしと冴子の場合は、単にやり手の子が入院したからなんだけど、評判や期待は上がる。
冴子は、ヤックンへの想いもあって、三年連続の巫女神楽をやったらチャンスも増えるし、ひょっとしたら江戸時代の先例にあやかって、少しは魅力的になれるかと口には出さないけど思っている。
「ちょっと寄ってくとこがあるから、先に行っといて」
「あ、うん。じゃ、そこまで……」
そう言いかけて、中庭の方へ足を向けたので――あれ?――という顔になる。
「三年の先輩に」
あいまいに旧校舎と芸術棟が重なるあたりを指さす。
「そか、じゃ、ヤックンとおさらいしとくね」
「うん、序のところで微妙に合わないから、しっかりやれって言っといて」
自然な形で、冴子とヤックンが一緒になれるようにという思いもある。
とにかくは、志村・中臣両先輩に報告と相談だ。
旧校舎の扉を開くと、そこはかとなくヒンヤリ。
わたしは中廊下の奥を目指した……。
☆ 主な登場人物
寺井光子 二年生
二宮冴子 二年生、不幸な事故で光子に殺される
中臣美空 三年生、セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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