第3話『かの世部』


かの世界この世界


03『かの世部』   






 ぼんやりと天井が見えた。



 和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の優しい感触。


 自分の部屋で目覚めた感覚……悪い夢を見たんだ……でも、よかった、夢だったんだ。


 ……いけない、起きなきゃ遅刻する!


 人の気配、お母さんに起こされるのは癪だ。




「目が覚めたようですね」




 え……お母さんじゃない?


 仰向きの視界に入って来たのは、見慣れないセミロング、制服の襟には一個上の学年章……三年生?


「よかったな、パニックにならないで」


 もう一人の声……目だけ動かすとポニテの三年生。


「あ、あの、わたし……」


「大丈夫みたいだな、起こそうか?」


「え…………」


「「……うんしょ」」


 返事をする前に起こされる。


「すみませ……!?」




 起こしてもらって視界に入ったのは、枕もとに血が滲んで無残に破れた制服。


「痛い……」


 同時に胸から顎にかけての痛みが走る。


 これは……冴子の爪にやられた傷……破れた制服……追い詰められて屋上から飛び降りたはず?


「ごめんなさいね、事件が起きる前までは戻せなくって」


「旧館に飛び込んで、廊下を突っ切るか、屋上に行くかで迷ったろ?」


 たしかに、廊下の先は行き止まりだと気づいて屋上に向かったんだ。


 でも……。


「時間を巻き戻して、あなたが廊下を突っ切るという選択肢にいたしましたの」


「廊下の突き当り、一つ手前が、この『かの世部』への入り口になってんだ」


「めっぽう分かりにくいんですけども、あなたは、うまく気づいて飛び込んできてくれましたのよ」


「おまえは、勘がいい」




 え? え? えーーーー!?


 


 事態をよく呑み込めない、でも、でも、冴子を殺してしまったことが現実であることに激しく動揺してしまう。


「そう、心配ですよねぇ。まだ事件は起こったままなんですから」


 二人の先輩は、痛ましそうに眉根を寄せる。


「でもね、ここからは、寺井さん、あなた自身の力でやってみなきゃならないんですの」


「や、やるって……?」


 ポニテ先輩の顔が寄って来る。


「もう少し時間を巻き戻して、事件の原因を取り除きに行かなきゃならない。寺井光子、あんた自身の力でな」


「でも、そのためには『かの世部』に入ってもらわなきゃなりませんのよ」


「とりあえず仮入部でいいから、美空、書類を」


「ほうら、ここにクラスと氏名を書いていただけます?」


 え? え? 訳わかんないよ?


「ええとね、わたし達『かの世部』の部員でして、わたくしが部長の中臣美空(なかとみみそら)、ポニテールのほうが副部長の志村時美(しむらときみ)ですの、よろしくね光子さん(^o^)」


 


 ドタドタドタ……ドタドタドタ……




 天井の斜め上あたりで何人もの人がイライラと駆け回る音がした。


「先生たち戻って来たみたいだぞ」


「「急いで!」」


「は、はい」


 慌てて入部届にサインした。




 とたんに光が溢れて目を開けていられなくなった……。






☆ 主な登場人物


 寺井光子  二年生


 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される


 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る