第27話 帰宅
時刻は金曜日の九時半。季節は春。
神栖は機械のような生活を送っていた。寝て寝て、たまに起きて、寝て、たまにご飯食べて、寝た。まるで、少量の食事がガソリンのようにそのためだけに起きては寝てを繰り返した。
たまにあみが心配になり、神栖の元へ来るも神栖は上の空状態だった。
あみは、心配になって行方に質問する。
「先生、兄はいつまでこのような状態なんでしょうか」
心配そうな表情で行方をじっと見つめる。
行方は「はっきりとしたことは個人差があるので言えませんが」と前置きをしたのち、重々しく話す。
「お兄さんの状態は陰性症状といって、青年期失調症にかかった人々が治る過程で必ず通る道なのです。治るにはおそらく早くて数か月。遅いと年単位でかかるでしょう」
その言葉にあみは下唇を噛んだ。
そして、あみは本当だったら今頃、神栖を治す勉強をしているはずなのになと後悔している様子だった。
あみに出来ることはなかった。
あみは仕方なく、お見舞いに来ては神栖と少し話をし、帰っていく。
そんな生活を送っていたある日のこと。
――外泊許可が出た。
あみは喜んで神栖を家へ招いた。神栖もそれに快く応じる。
「はぁ~、あみーご飯作ってー」
「はいはい、仕方ないな……。今日は何がいい?」
「ネットを見て、美味しそうなやつにする」
「わかったよー」
徐にスマホのスイッチをオンにする。すると、真っ暗な画面に一筋の光が差す。数秒も経たないうちに画面はついた。
その画面を数秒間見つめながら、ふっと息をついて検索画面に文字を入力する。
「『朝ごはん』検索っと」
検索結果には簡単に作れる朝ごはんが多数ひっかかっていた。神栖は「うーん」と悩みながら一つ一つ吟味していく。
そして、これっというものを見つけた。それをあみへ伝える。
「あみ~! 肉じゃが作って~!」
「はいよー」
あみは神栖のリクエストを聞いて調理に移る。その間、Twitterを見る神栖。中には最近、仲良くなったフォロワーさんたちがリプを返していた。
微笑ましいな、そんなことを思い浮かべる。そして、Twitterにとあるアニメの情報が描かれていることを目に刻むようになる。
……それは『○○完、第三期! 今夜、ついに最終回! それを記念して、今日! なんと今日! 一気に最初から最後まで放送したいと思います! 皆さまご覧あれ!』
「えっ⁉ 三期⁉ ってか、最終回⁉」
びっくりする神栖。
すると、あみから「お兄ちゃん」と声がかったので「んー?」と返す。
「生返事じゃなくてちゃんと返事してよ、お兄ちゃん」
「わりぃ、わりぃ」
「ったくもー、はぁ」とあみは一つため息をつきながら「肉じゃができたわよ」と兄を呼ぶ。
そういえばいい匂いがするなTwitterに夢中で気づかなかった。
「はーい」と返事をし、その匂いの香るほうへ向かう。
席に着くと、肉じゃがを中心に様々な料理がテーブルの上には並んでいた。
うむ、美味しそうだ。
二人は対面で席に着くと、「いただきます」と言い両手を合わせる。そして、神栖は一言、「あみ、いつも美味しいご飯をありがとう!」とい言うのだった。
その言葉に、あみも「いえいえ!」と答え、「じゃあ、食べよ!」と手を伸ばす。
美味しい。やっぱ美味しい。あみの手料理は美味しい。感謝しかない。
一口一口、歯でそれを噛みしめていくたびに、ジュワ~っとうまみがあふれてくる。
それが、たまらなくおいしい。
一人味を堪能していると、目の前の少女から声がかかった。
「お兄ちゃん、○○第三期、CM明けだから、今日の23時03分からやるらしいよ」
「あ、それ見た。Twitterで。いやあ、だけど一巻を手にしたあの時から三期までやると思ってたんだ!」
あみはそんな姿に呆れながらも、実際にそのアニメに感銘を受けたのは間違いのないことであり、その物語の登場人物がどんなフィナーレを迎えるのか、さらに物語全体としてどんなグランドフィナーレを迎えるのか気になっていた。
そこであみは一つ神栖に提案する。
「お兄ちゃん、この一挙放送、一緒に見てみない?」
「え? でも、あみも受験勉強あるだろ? 大丈夫なのか?」
「うん、気晴らし気晴らし! たまにはいいのよ」
「あみがそういうなら……」
「よし、なら決定ね。じゃあ、二十三時お兄ちゃんの部屋集合ね」
そんな話をしながら、外泊して初めての朝ご飯の時間が過ぎていった。
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