第20話 マークミス
目指すのは百点満点あるのみ。
試験の内容としては、例年より難しかった。
過去問を何十年と解いて、それを何回も繰り返しているからわかる。
……難しい。
――しかし、それは『一般の生徒にとっては』だ。
医学部を目指しているあみにとって、これくらいの難易度どうってことはない。
――簡単だ。
人の倍くらいのスピードで頭が回り、次々と問題を解いては回答欄にマークしていく。
こんなの造作もない。それはまさに一種の職人芸のようだった。
試験時間は、二時間。
試験を解いてる最中、一問だけ不安なところがあったので、後で考えようと思い一問マークをずらして、つぎの問題から解いていく。
そして、開始から一時間半経過したとき、あみの鉛筆は一時の落ち着きを取り戻した。
そう、問題が全部解き終わったのだ。
一呼吸した後、再度問題を解くのに取り掛かる。
一瞬の油断も隙も入らないように、解いた問題を再確認する。
時間はたっぷりある。抜かりはない。
二回解き終わったら三回目、三回解き終わったら四回目と何度も何度も解き直しをする。
そして、それが間違っていないかを再確認してから再びマーク欄に目を落とし、マークミスしてないかを見る。
再び言うが、徹底的にやる。抜かりはない。
そして、わからない問題に行きついた。残りの三十分はこの問題を解く時間に充てようとそう決めたあみ。
その問題に没頭しているうちに、気づいたころには試験終了三分前になっていた。
結論から言うと、その問題は解けた。単純に計算ミスがあったのだ。
――突破した。
そうあみは感じていた。ここまでの努力が実になったのだと、そう感じた瞬間でもあった。
「試験終了は間もなくです。マークミスやケアレスミスなどしてませんか?」
その試験官で余韻からハッと我に返り、解答欄を見直す。
うん、大丈夫。マークもしっかりできてる。
しかし、あみは見つけてしまった……。
――マーク欄が一マスずれていることに。
「……えっ」
咄嗟のことでパニックになる。
「……ちょっとまって!」
頭がついていかない。
まずい、このままでは一マスすべて解答欄がズレてしまう!
国語の挽回ができない!
このままでは二次試験さえ受けることができない!
パニックになる。それにより手が震える。自然と涙が出てくる。
「……なんで、こんなはずじゃなかったのにっ!」
まだ間に合う。
急いで解答欄を全部消し、新しくマークする。
しかし、時間は一刻一刻と残酷にも過ぎ去っていき……。
「そこまで!」
――終わった。
すべてが終わってしまった。高校三年間の思いが。なにより、神栖を助けたいという思いさえも……。
その声が聞こえた瞬間、一気に涙が溢れ出してくる。
やってしまった。問題が解けなくて試験に落ちるなら百歩譲っていや、一万歩譲ってわかるが、まさかケアレスミスとは。
こんなの家族に、そして神栖になんて言えばいい。
そして、このやるせない気持ちをどこにぶつければいい。
きっとあの時出会った青年が言っていたことはこのことだったのであろう。あみの目から光が消える。
もうダメだ。
二次試験が受けられるかどうかは絶望的だった。なにより、得意科目でこんなに失敗してしまったのだ。しかも、これが最終科目。挽回なぞできない。
「もう一回っ! もう一回やられせてください!」
そんな心の声がボソッと漏れる。しかし、その声はあみの神栖を治したいという希望と同じように周囲の声にかき消されていった。
――そして、「もう無理なのかな」から「もう無理」に変わるまでには時間はかからなかった。
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