第19話 受験
場所は変わって試験会場。そこにあみはいた。
「鉛筆は大丈夫。いや、念のためもう一本出しておこっと。あと、消しゴムも念のため二個出しておいて……。あとは、鉛筆削りが必要だ」
独り言をぶつぶつ言いながら開始の準備をする。
そして、いよいよ偉い人達が問題らしきものを持って教室へ入って来た。
「えー、試験はまずは、英語……」
係の人だろか、受験の案内をしている。
問題は簡単に言うとこうだ。
まず、今日は要するに一次試験。マーク式のテストである。それは、六科目九百点満点でり、ここを乗り越えて二次試験、本番だ。なので、ここで躓いてては話にならない。
教室は偶然にも医学部の学部で行われた。約百人程度入る大きな階段教室だ。
席の端と端に各長机二人ずつ座り、その長机と長机の間を係員さんが問題用紙を配り置いては通り過ぎていく。
そして、あみの前にも問題が置かれる。
……緊張する。
……落ち着け、私。
……緊張する。
……落ち着くんだ、私。
……緊張する。
……落ち着こう、私。
お兄ちゃんからもらったお守りをギュッと握りしめる。
「よし、大丈夫」
私なら大丈夫。私ならいける。
大丈夫。
カチッカチッ。
秒針が動き時を刻む。
そう、人生を決める勝負の刻時だ。
そして、秒針が重なった瞬間。
「始めっ!」
静寂の部屋の中に、ページをめくる音が一斉にまるで谷の如く木霊する。
鉛筆の音だけがカタカタ響き、問題を解いてる人、深呼吸してる人、問題を眺めている人それぞれだ。
あみには作戦があった。どういう風に解こうかという。
時間配分もしっかりしており、計画に抜かりはない。
まずは英語、リスニングだ。
イヤホンをしっかり耳にはめ、そこから奏でられる音を一音一句聞き逃さないように。
よし、聞き取れないところはない。満点とは言えずとも、九割がた取れているだろう。
この一次試験の目標は9割だ。
大丈夫、解ける。解けるぞ。
神栖のお守りの力もあるのだろうか、順調に解いていった。
ところどころ不安なところもあったが、問題ない。
そして、マーク試験で一番怖いのはマークミス。最悪のケースはそれによるマークのズレだ。
……確認する。
よし、マークのミスはない。ズレもない。
あみは勉強のゾーンに入る。
解ける。スラスラ解ける。大丈夫、大丈夫だ。
気づいたら試験終了十分前になっていた。
このころには解き終わっているあみ。うん、予定通りだ。
ラストの十分は見直しの時間に充てる。間違っているところはないか、ケアレスミスしてないか、マークミスしてないかどうかを確認する。
……うん、大丈夫。
その瞬間、時計の針が終了の時間を合図する。
と、同時に
「そこまでっ!」
試験監督が終了時間を告げる。
試験官が試験の解答用紙を回収する。
そこで、あみは一息ついていた。
……緊張した。緊張して吐きそうだった。一教科目は、試験の最初は緊張する。
なんとか無事終わった。よかった。
休憩の間にお手洗いなど行き、次の試験の準備をする。帰ってきたらゆっくり一人の時間を作り、気を休める。まだまだ試験は始まったばかり、これからである。
順調に試験は進んでいった。
途中、誤字脱字や問題の訂正もあったが冷静に対処した。
始まるたびに緊張し、終わるたびに緊張の糸が緩まる。
これは、何度味わったても慣れない。
そして、順調に進んでいき、一つの正念場が来た。苦手科目、そう国語だ。
国語は二百点満点で試験時間も長い。
これが終われば一段落する。
「始めっ!」
その掛け声と同時に、一斉に国語の得点を争うレースのスタートを切る。
結果から言うと、あみはそのレースでは遅かった。スタートから遅れ、躓き、やっとの思いで解いた。
わからないところも多々あった。時間もいくらあっても足りなかった。
しかし、その苦手な国語を倒すために何も準備してこなかったわけではない。ちゃんと過去問を解き、試験に臨む。
苦手とはいえ、さすがは医学部医学科を目指していることはあり、一般的な高校生よりかは取れていただろう。しかし、同じ土俵に立っている人から言わせてみると、かなり遅れを取った。
「やっちゃったな……」
失敗した。時間配分もうまくいかなかったし、古文や漢文ではわからない単語がいくつかあった。
……だが、なんせこの次は十八番の数学。ここからが本領発揮だ。この国語で失敗した分を数学で返せばいい。大丈夫だ。
「よしっ!」と気もしを切り替える。終わったことを考えている暇はない。終わったことは終わったこと。それに、国語で失敗するのは予想範囲内だ。かっこよく言うと作戦通りである。
そして、最後の科目。いよいよ数学だ。
あみにとって数学は一番の得意科目であり、ここで点数を取らなくて、どこで取るんだってくらい正念場だ。
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