暗陰は散開し、空霽れ渡る/スリーダウト
車窓の外を見続ける僕ら二人のコンビは奇特に映っただろうか。
少なくとも、僕らは集合時間に平気で間に合った事を互いに確かめ合うまでは、明野の影と日向の黒白を追いかけて何かを思考していたに限られていた。
そして、それは、例の拠点に辿り着くまで変わらなかった。
「相変わらず表情が硬いな?」
「いいえ、そんなことは無いです。あ、なにか理由をつけるなら……そう言う顔で生まれたってことにしときましょう。どうですか?」
あまり笑うのは得意な方ではない。元々元来持ち合わせた己の運命という奴である。特段の事情があって、表情が硬いのかと言われてみれば、そんなことはない。少なくとも、考え込むことと表情自体はそういう生まれ持った節がある。嘘……というのが関連していないとは言い切れないが、世話になった人を邪険には出来ない、そこまで心の死んだ嘘つきではない。
「ふふ、ま、そういう小言を言えるようなら安心したよ。とりあえず降りよう、おひるごはんになるんだろう?楽しみだなあ~!」
わざとらしいコウテイさんの声が静かに響く。
こういう所はちょっと純粋さが強くてびっくりするんだよな。
こういう様な会話を静かに繰り広げながら、某俳優氏の後ろを付いて行く。彼の足は思っていたよりも早い。ペンギンもそうだなあと感じる機会が何度かあるが、歩行速度は割合早いらしい。それを抜かすのも面倒だ、それに誰かについて歩くのは気楽でいいものだし。
僕らは体で言うと、最後尾だった。
「……仲がよさそうじゃないか。私たちもやるかい?」
コウテイさんが揶揄るように言ったのは、平城山さん達の事だろう。本当に彼は成長らしい成長を果たしたらしい、いつの間にやらいい雰囲気だ。いや、元より相性自体はよさそうであったが。
「僕らは初日のリウキウでやったじゃあないですか。」
「ん?そうか?」
「ほら、走ったでしょ?手を勝手に引いてしまって悪かったと思ってるんです」
「あぁ、確かに。でも別に構わないけど……」
「けど?」
「……ふふふ、ヒミツだ。」
あと一歩をはぐらかされてしまった。
僕は嘘、彼女は秘密。お互いに、腹を真っ白に出来るタイミングは、もしかしたら来ないのかもしれないな、などと思ってみてみる。
「はぁ、うっさいよ……」
「おや、なんか前の方が騒がしいね」
「歩みも止まってますね。」
思わぬ助け舟……という所か?秘密と嘘で鍔競り合う前に、環境が変わってくれた。ここで断っておくが、僕はご都合主義万歳論者である。ラッキーならラッキーでよいのだということにして、それを運命としておこう。
「おにいちゃん、大丈夫?疲れちゃった?」
「ん……、大丈夫だよ」
どうやら無意識なため息に対する幼い心配に対応しているらしい。不安そうな表情のホワイトサーバル……あぁ、そう言えば何処かで合流したと言っていたか……を軽く撫でてやっていた。しかし距離の近いものだ。羨ましいとかそういう文法の話ではなく、彼の地位ともなればいろいろと複雑そうだ。
「もうすぐ拠点だから、お昼ご飯食べて元気チャージしよー?」
「……そうする。」
はぐらかしたと見える。ニヤついた白髪ロングの女性を見るに、恐らく茶化されでもしていたのだろう。彼の地位ともなればいろいろと複雑そうだ。
と、ふと平城山さんが口を開く。
「継月さんって、妹さんいるんですね。それもアニマルガールの」
「いえ、そうではなくて……。
ホワイトサーバルちゃん……というより小さいフレンズの子は、園長さんの事を本当のお兄ちゃんみたいに慕ってる子が多いんです」
まぁ、おおむねそういう事だろうとは思っていたが、
「継月の事をお兄ちゃんって呼んでるフレンズ、割りといるんだよ。じゃんぐるにいるミナミコアリクイやマレーバク……後は今回の旅企画に参加してるジョフロイネコとか」
とのことらしい。故に、
「小さい子が、近所に住んでる年上の人をお兄さんお姉さんって呼ぶのと同じ感じですかね?」
「タコの予想した通りで大体合ってるよ」
まぁ、彼の血縁にフレンズが居れば、もう少し然とした見た目になっていそうなものだし。
「えっ、でもあいつ、ホテルで継月の事『園長さん』って呼んでたぞ?」
「多分、他の方がいるからそう呼んでたんだと思います。ジョフロイネコさんは、少しばかり背伸びをしたがる子なので」
実際、偶々ジョフロイネコが継月さんと二人きりでじゃれ合ってた時に『にぃたん』と呼んでいましたし……と、ミライさんが(それ言って大丈夫なのか?みたいな情報を)付け足す。
「へぇー?」
「ロードランナーさん?それを理由にからかうのはやめて上げて下さいね?」
「わ、わかってるよ……!」
言わんこっちゃないというやつだ。
咎めねば、どうなっていたか。
そうこう言っているうちに、拠点へと到着した。
サーバルさんの歓迎を受け、恐らくここの隊長さんらと少々会話したのち、そのまま昼食となるらしく食堂へ通された。
________________
「やー、みんな待たせて悪いね」
しばらく待ったが、継月さんはやや急ぎ足で広間(食堂かと思っていたがどうもここは広間を会食用に調整したものだったらしい。気合が入っている事で……)へ入ってきた。
「継月……遅い」
「ごめんてキタキツネ。ちょっと祐一(僕が注釈しておこう、これは隊長さんのお名前だ)から連絡事項聴いてたもんだから」
「園長さん……その、急かすようで申し訳ないんですけど早く音頭取って貰えると……」
雪衣さんの視線の先には、食べたい衝動を堪え震えている、件のジョフさんの姿があった。オトナな背伸びは効かなかったらしい、まあ三大欲求を抑えられるようなのは修行僧の域であるし、致し方あるまい。
「さて2日目のお昼ですが、今日は探検隊のみんなが作ってくれました。旨そうなの前にお預けさせる形になってごめんねみんな。
それじゃいただきます!」
「いただきます。」
カニに唐揚げ、まあ毎度毎度上手いこと旨そうなものを……と。
「タコ飯……」
「あぁ、ほんとですね。」
「そういえば、なんで『タコ君』なんだ?」
「……昔雑誌の懸賞にこの名前で送ってから、気に入ってハンドルネームにしているんです。別に深い意味は無いです。まぁ、本名をもじったものというだけです」
「なるほど。ジョフロイネコをジョフ、ジェンツーペンギンをジェーンと呼ぶようなものなんだな。」
「そんなとこです。継月さんは……あれって本名なんですかね?」
「モグモグ……んー、どうなんだろうな?元をたどれば君たちの本名はみんなホモサピエンス・サピエンスだろうから、今更な気はするけど。」
……よく知ってるな。
「ふふ、これでも勉強はしているんだ。」
「恐れ入りました。名前なんて記号みたいなものですから、本物かどうかは関係なさそうですね。」
「あぁ、コウテイでもコウペンでもエンペでもなんとでも呼んでくれ?」
「はは、コウちゃんなんかでも許してくれそうな言いぶりですね」
「勿論だ、ファンのみんながそう呼ぶなら、構わないよ。」
「へえ。流石ですね。」
「継月さん……。貴方、オロチさんの酒のつまみ作るついでにお昼の仕込みもしましたね……?」
……えっ?そうなのか?
「分かるよ~。毎日継ちゃんの料理食べてるんだもん。ねぇコウテイ?」
「そうだな。私達には馴染み深い味だ。
悪いねタコ、君の話を聞いていて言い出す機会を失ってたよ。」
なんて人だ、この量を仕込んだとは。
「彼は何なんですか?」
芸人、俳優、園長、料理人。
どの顔が本人でも構わないほどの兼備具合。それぞれに特化した螻蛄のようなものだ。器用貧乏という言葉は、オールラウンダーという言葉に及ばず、彼は後者という事になる。一体何なんだ。
彼女はニヤついて返す。
「ホモサピエンス・サピエンスだよ」
へぇ、上手い返しを。
「一本取られました。……失礼、ご飯のおかわりはいただけますか?」
________________
「いいんですか?バスはもう少しすると出るって聞きましたけど。」
「それまでだけです。少し話しておかなくちゃいけないかなって。」
「聞いておきます。貴方の頼みですから。」
「ありがとう……それで、具体的には?」
「僕がこの旅に参加出来たこと自体は恐らく確率論的に公平な物だったとは思います。けれど、コウテイさんがペアになったり、園長さん……つまり、彼に会えたりしているのは……」
「まぁ、彼女のおかげあってこそ……でしょうね。」
「ふー……。まぁそんなところだろうとは思ってましたけど。」
「それが"嘘"の本質ですか?」
「ひとつはね。」
「まだあると?」
「覚えてませんか?僕の職業。」
「あぁ、そう言う事ですか。……でも、許可は取っているのでしょう?」
「この形で居る……とまでは言っていませんが。」
「なんとか言っておきますよ。分かっています。」
「ええ、悪いけど頼む、祐一くん……あと、華さんのこともよろしく。」
「はい、こっちも信頼してますから。センターフォーアニマルエコロジー・リサーチトゥセーブワイルドライフ・フロム・カラミティ。」
「……よしてよ。僕らはただのoctopusだ。」
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