サイバーフロンティア
不和久 友
第1話
目を覚ますと、そこはひかりの中だった。
ぼんやりした頭では、どこにいるのかわからない。
熱くも寒くもなく、不快な感覚はなかった。いやむしろ快適だ。
やがてはっきりとする意識。
目に入ってきたのは、発光する天井だった。
光源が見当たらない。天井一面が光っている。仕組みは分からないが、心が落ち着く気持ちのいい光に満たされている。
見たこともない天井に彼は、周囲を見回そ…… みまわ…… 見回せなかった。
首が回らないのだ。
「ど……っ…………」
咄嗟に上げた声もかすれるうえにか細く、周りに人がいても聞こえるようなものではなかった。
慌てて体を動かそうとするも、手足はおろか指一本動かない。
(くそっ、どうなってるんだっ)
心の中で悪態を吐くもどうにもならない。
唯一動く眼球を動かしてみるが、視界には変わったものは見えない。
ただ、少し離れた所で、気配が動いた気がした。
何者かの気配のするほうに意識を向ける。指一本動かせない現状を変えられるかもしれない。それでなくとも、話ぐらいは聞けるかもしれない。彼は、何と無くそう思った。
その気配は予想通りに近づいてきたようだ。
ふいに影が差し、気配の主が顔を覗かせた。
その顔は中性的で、人形と見間違える程に美しいのだが、やはり人形のような無表情だった。
ただ、その瞳だけは、驚きの色をたたえているようだ。
・・・。
・・・・・・。
そうして見合うことしばし。
その人は徐に視線を上げると、右手を空中へのばしてうごかした。スマホかタブレットでも操作しているような動作に見えた。
実際には、何も持っていないのでややシュールな光景なのだが、当の本人は慣れた手付きで、傍から見るとまるで手話でもしているかのようだった。
しばらくの間その動作を続けると、寝台の彼を一瞥してから踵を返してスタスタと歩いて行ってしまった。
一人残された彼は、状況の変化について行けずに、しばらくの間呆然としていた。
そして、部屋に一人放置されたことに気づくと、
(説明くらいしてくれーっ)
心の底から叫んだ。
が、声は出なかったし、きっと声が出ていても足を止めることはなかっただろうと何と無く感じた。
そうして何人もの人がやってくるまでの約30分程で、不安に押しつぶされた彼の心は、死にかけていた。
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