004 キズとキス

 部屋を飛び出したリアムは、庭園の端ですぐに追ってきたエゼクに掴まっていた。

 

「ごめん!!でも、リアムのことが好き過ぎて、こんな醜い傷の俺が、君に触れてもいいのか分からなかったんだ!!」


 そう言って、リアムを後ろから抱きしめながら吐露していた。

 

「私は、気にしません!!」


「でも……」


「見せて……ください」


「え?」


「エゼクさんの傷をもう一度、私に見せてください!!」


「しかし……。あの時は、暗かったし……。だが今は、こんなに明るい……。明るい場所で見ればきっと……」


「エゼクさんのバカ!!弱虫!!」


「えっ!」


 驚くエゼクを無視して、リアムは面頬の留め具を外しに掛かっていた。

 どうしたら外れるのか分からずに、抱きつくようにして後ろ首にある留め具を外そうと躍起になっていると、エゼクの手によって止められていた。

 

「どうしてですか!!」


「ごめん……。リアムの気持ちは分かった……。だから、俺からもお願いするよ。リアムに、俺の傷をしっかりと見てもらいたい……。気持ち悪くなってら言ってくれ、直ぐに―――」


「私を信じてください!!でも、無理強いしてごめんなさい……」


 落ち込むリアムのチョコレート色の髪を優しく梳いたエゼクは、ゆっくりと面頬を外してリアムと向き合ったのだ。

 

 リアムは、顕になった傷をじっと見つめてから、指を這わせていた。

 優しく傷を撫でるようにすると、エゼクが少し首をすくめた。

 

「ご、ごめんなさい……。い、痛かったですか?」


「いや、もう痛みはないから安心して。少しくすぐったかっただけだ」


 エゼクの言葉を聞いたリアムは、安心したように息を吐いてから、再び傷に触れた。

 そして、笑顔を浮かべてリアムは告げていた。

 

「好き……、好きです。エゼクさんが好きです。大好きです!!」


 唐突なリアムの言葉に、エゼクは破顔していた。

 可笑しそうに笑いながら、リアムの言葉に心が軽くなるよだった。

 

「ありがとう。俺も、リアムが好きだよ」


「はい。っ!あの……、耳を貸して欲しいです……」


 リアムは、何かを思いついたようにそう言って、エゼクの服を引っ張っていた。

 エゼクは、自分よりも背の低いリアムのために、耳を寄せるように屈んでいた。

 

「ん?どうした?」


 屈みながら、リアムにそう問うたその時だった。

 服をぐいっと引かれたかと思うと、口の端に柔らかい物が掠めるように触れたのだ。

 驚きに目を見開いていると、身を離したリアムが、顔を真っ赤に染めて言ったのだ。

 

「えへへ、奪っちゃいました」


 そう言って、呆然とするエゼクの手に木彫りの人形を渡して、走り去ってしまったのだ。

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