番外編(エゼク×リアム編)

001 リアムの悩み

 リアムには悩みがあった。

 それは、思いが通じてから一緒に住むようになったローグとジェシカが所構わずにイチャツイていることも悩みといえば悩みだったが、それよりも深刻な悩みがあったのだ。

 

 ローグとの体の共有が解除されてから数日、ローグは、ジェシカの夫に相応しい男になるべく、ガウェインの元で勉強を始めていた。

 その他にも、体を鍛えて将来、ジェシカと共に伯爵家を継ぐための勉強を始めたのだ。

 ジェシカは、爵位を分家に譲ってもいいと考えていたが、現在代理で仕事を請け負ってくれている分家側から、平民でもいいので是非その人と結婚して家を継いで欲しいと泣きつかれてしまったのだ。

 元々、分家の人間は爵位に興味もなく、領地でのんびり過ごしたいという性格だったところを、無理を言って代理になってもらっていたのだ。

 

 ジェシカと一緒になるために頑張るローグは、意外と推しに弱く、ジェシカにジャレ付かれるとそれを無下にも出来ず、結果的に至るところでイチャツクようになってしまっていたのだ。

 

 元々一人暮らし用の家を借りていたため、部屋数も少なく、寝室でリアムとジェシカが一緒に寝て、リビングでローグが寝るようになっていた。

 そんなある日、喉の乾きで目が覚めたリアムは、隣に寝ているはずのジェシカがいないことに首を傾げつつもキッチンに向かうために部屋を出た。

 すると、リビングで何やら物音がしたため、ローグとジェシカも目が覚めたのだと思い、二人に声をかけようとしてその場で動きを止めていた。

 

 リビンクから、苦しそうな声が聞こえてきたからだ。

 驚いたリアムは、二人の身に何かがあったのではないかと駆け寄ろうとして、慌てて部屋に引き返していた。

 

 そして、ベッドに潜り見てしまったものを忘れようと目を閉じたが、瞼の裏に二人の見てはならない姿が蘇ってしまい眠ることが出来なかった。

 次の日、二人の顔を見るのが気まずかったリアムは、ローグとジェシカが目覚める前にそっと家を出ていた。

 

 向かった先は、公爵家の屋敷だった。

 

 エゼクと思いが通じ合った後、家族を紹介すると言われて紹介された相手が、恩人のアンリエットとガウェインだと知った時は、物凄く驚いたリアムだったが、アンリエットが、いつでも遊びに来てと言ってくれたため、何かあるとアンリエットに相談するようになっていたのだ。

 

 そして、昨日のこともあり家を出た方がいいのかと悩んだリアムは、その事ともう一つ、最近悩んでいることを相談しに行ったのだ。

 

 屋敷に行くと、アンリエットが優しくリアムを迎えてくれた。

 

 そして、昨日の出来事をオブラートに包んで相談すると、顔を真っ赤に染めたアンリエットがリアムに提案したのだ。

 

「まぁ……、それは……。リアムちゃん……、姉様が色々とごめんなさい……。そうだわ、リアムちゃんは、ゼク君のお嫁さんになるのだから、お屋敷で一緒に暮らせばいいのよ!!わたしも、結婚前にガウェイン様と一緒に暮らしていたし。いい考えだわ!」


 そう言って、楽しそうに両手を合わせて可愛らしく言ったのだ。

 リアムは、そんな花のように微笑みを浮かべるアンリエットをうっとりと見つめた後に、慌てて断っていた。

 

「駄目です!!そんな、ご迷惑をお掛けするわけには……。それに、エゼクさんは……私のこと……」


 そこまで言ったところで、リアムは涙の膜を張って、瞳を潤ませたのだ。

 それを見たアンリエットは、驚いた表情をした後に、そっとリアムを抱きしめていた。

 

「リアムちゃん?どうしたのですか?ゼク君と何かあったのですか?」


 アンリエットがそう言うと、腕の中のリアムは、無言で首を横に振っていた。

 無理に聞き出すのは可愛そうだと考えたアンリエットは、腕の中のリアムの背中を優しく、ぽんぽんと叩いて、彼女が落ち着くのを待った。

 すると、腕の中のリアムはゆっくりを顔を上げて、アンリエットに言ったのだ。

 

「なにも……、何も無いんです……」


 リアムの言っていることが分からなかった、アンリエットは首を傾げていたが、リアムはそれに構わずに言葉を続けていた。

 

「あの日、体がもとに戻った時に、プロポーズの言葉を頂きましたが、あれ以来、何もないんです!!手も繋いでくれないし、キ、キス……も一度もしたことがないんです!!」


 そう言って、真っ赤になって見上げてくるリアムを見て、アンリエットは、納得したのだ。

 

「なるほどです。そうですか……。もう、ゼク君は、色々と気にし過ぎなのです……。そうだわ、それだったら……」


 そう言って、アンリエットはリアムにいい考えがあると言って、一旦部屋を出て何かを取りに行ってしまった。

 そして、戻ってきた時に、その手にはどこかで見たことのある木彫りの人形を持っていたのだ。

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