013 アンリエットのお土産
デート当日、ジェシカはエゼクを無理やり待ち合わせの場所に連れ出していた。
エゼクは、何度も帰ろうとしたが、その度にジェシカに止められた、最終的には諦めて付き合うことに決めたのだったが、待てども待てどもローグトリアムは来なかった。
しかし、日が沈みかけたその時、とうとう待ち人が現れたのだ。
息を切らして駆け寄るローグトリアムに、ジェシカとエゼクは目を奪われていた。
チョコレート色の髪が走る度に跳ねて、走ってきたことで白い肌が紅潮し、玉のような汗をかいていたのだ。
ジェシカとエゼクの前で荒い息をしながら、ローグトリアムはこう言ったのだ。
「ごめんなさい。誰とも好き合うことなんて出来ない……。忘れてください……」
それだけを言って、ローグトリアムは再び駆け出していた。
その場には、呆然とするジェシカとエゼクだけが取り残されていたのだった。
その日から、ジェシカとエゼクは、死んだような目で過ごしていた。
そんなある日、ラブラブ旅行にでかけていたガウェインとアンリエットが帰ってきた。
落ち込む二人の事情を無理に聞き出そうとはせずに、アンリエットは優しいほほ笑みを浮かべて、二人のに謎の木彫りの人形をお土産だと言って渡したのだ。
「ただいま。お土産ですよ~。この木彫りの人形はとてもご利益のある恋愛成就の効果があるそうなんです。是非、二人には幸せになって欲しいと思って、買ってきちゃいました」
そう言って、恋愛成就するようには見えない、謎の木彫りの人形を片手に眩しいほどの笑顔を見せたのだ。
しかしながら、二人の脳裏にはあの時、悲しそうな表情で「誰とも好き合うなんて出来ない……」と言ったローグトリアムの事が浮かんでいた。
「アンリ……。お願いがあるの、この恋愛成就のお土産、あげたい人が居るの……いいかしら?」
「姉上……。折角の土産ですが、恋愛成就の木彫りの人形を是非差し上げたい人がいるんです……」
真剣な表情をした二人に、同時にそう言われたアンリエットは、驚いた顔をしつつも花のような笑顔を浮かべてこう二人に声を掛けたのだ。
「うふふ。二人は、心から愛する人にこれを上げたいのですね。自分のことよりも、相手の方を思うお優しい二人のこと、わたしは大好きですよ。もちろんです。どうそ、お二人の想い人に差し上げてください」
その言葉を聞いた二人は、恋愛成就の木彫りの人形を持って、屋敷を駆け出していた。
「エゼク教官!!この時間なら、ローグちゃんはまだ食堂にいます!!」
「は?食堂?」
「えっ?知らなかったんですか?ローグちゃん、彼女は軍の食堂で働いているんですよ?」
「知らなかった……。俺は何時も彼と夜の公園でしか会ったことがなかったから……」
「えっ?彼?」
「はっ?彼女?」
二人が同時に疑問を口にした時、食堂の裏口から出てくるローグトリアムが見えたのだ。
二人は、同時にローグトリアムを呼び止めていた。
「ローグちゃん、待って!!」
「リアム!!聞いてくれ!!」
二人の声に驚きの表情で振り返るローグトリアムだったが、慌てたようにその場を駆け出していた。
一瞬、遅れを取った二人だったが、流石の速度で直ぐにローグトリアムに追いついていたのだった。
人気のなくなった公園の片隅で、ジェシカとエゼクに追いつかれたローグトリアムは、慌てたように言ったのだ。
「悪い、俺……。時間がないんだ……。急いで帰らないと。もう、時間がないんだ!!」
そう言って、必死の表情のローグトリアムに駆け寄ったジェシカとエゼクは、同時に木彫りの人形を差し出していた。
その不思議な光景に目を何度も瞬かせていたローグトリアムは、日がゆっくりと沈むことを肌で感じてため息を吐きながら言った。
「もう……。どうしたんですか?」
「これを受け取って欲しいの!ローグちゃんに幸せになってもらいたいの!!」
「これを受け取ってくれ!!リアムに幸せになってもらいたいんだ!!」
必死にそう言って木彫りの人形を差しだず二人に呆気にとられつつも、両手でその人形を受け取って言ったのだ。
「逃げ出した
そう言ったローグトリアムが瞬きをした時、二筋の涙が頬を伝って、手元の木彫りの人形に落ちたのだ。
その次の瞬間、アンリエット曰く、恋愛成就の木彫りの人形は凄まじい光を放っていたのだ。
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