公爵令嬢争奪真竜対決 8

「化け物だね」


タクミはその圧倒的な力に驚いていたが、それでも恐怖には感じなかった。


「でも、脅威であることは変わらないか。」

「ハア!ハ、ハ、ハ、ハア! さすがに、平民には、難しいようだな!」

「兄上、そんな本当の事、わざわざ言わなくとも判っておりますよ」

「いえ、兄じゃ、それが判らないから平民なんですよ」


タクミが真竜と対峙し、これからのどうするか考えていると、何処からともなく陽の光に輝く銀甲冑で武装した、三人の男達がそれぞれの武器を携えて、真竜の前に姿を現していた。

装備だけ見ると、甲冑もこれでもかと云うくらいに耐性魔術や防御系魔術の魔術紋が浮き出されているし、その武器も国宝級の物と解るくらいの魔素を蓄える事が出来る刀身に攻撃系魔術の魔術紋が刻み込まれている、多分人族が持ちうる武器の最高峰とでも言えそうだった。

ただ、着ているのがこの三人な為、それ程素晴らしい物に見えないのは仕方ないことなのかもしれない。


「我はセレイド! シルフィテリア王国の皇太子である! 真竜よ、我の前に跪くがよいぞ!」


見た目顔はわりかしいい男風なので、言っている言葉と合わせてみると格好良く見えるが、少し小肥りな体型と、そのにやけ顔が台なしにしている皇太子殿下だった。


「次に控えるは、シルフィテリア王国の第二王子、カルルドである! 兄上より先に真竜の首をはねてやるから覚悟しろ!」


三人の中で一番背が高いカルルド殿下。

ただ、その細身の体型が、戦闘向きで無いことを物語っていた。

もしかするとタクミのように容姿と強さが一致しないパターンもあるが、このカルルドに関しては間違いなく不向きであることは間違いなかった。

威勢の良い啖呵を切っていたが膝がガクガク震えているのが見えたからだ。


「最後はこの僕、第三王子のクドエルドだ! 真竜を退治するのはこの僕である! そして、カルディナの夫になるのもこの僕である!」


三人の中で一番背が低く、丸々太ったその体型で、この勝負に出た事事態が間違いのような気がする。

しかし何か三文芝居でも見ているような、臭い演技に見えるのはどうしてだろう?

この三人の少し棒読みっぽい台詞がどう見ても台本が有るように感じてしまう。


『これは完全に演出されているわね』


タクミと同じ感想をヴェルデが話してきた。


『やはりあの呪縛紋は、王族が施したものなのかもしれないわ』

『それなら、真竜が暴れ回るなんて事はないのか』

『それは、どうじゃろう?』


クロちゃんが、タクミの言葉を否定すてきた。


『あの呪縛紋は、力を制限するというより、意思そのものを制御するための下法術じゃ。それに、どうやったかは知らんがあれ程強力な術なら真竜といえども、術者の思い通りにさせる事が可能じゃろう。もし、その術者があの皇太子の兄弟の誰かか、それに近しい者ならば、まず狙うとすればタクミさんではないかと思うのじゃが』


クロちゃんは、タクミが狙われることを心配している。

確かに今、カルディナ姫を狙う王子三兄弟にとって、一番目障りなのはタクミだろう。

だから、真竜をわざとタクミにけしかけ、タクミが真竜に負けるようにするつもりなのかもしれない。


「グウオオオオオオオオオオ!!!」


タクミ達が状況を確認している間に、真竜は王子三兄弟に向かって怒狂う咆哮を上げると大きく口を、体内の魔素を凝縮し始めていた。


『タクミさん!まずいぞ! あれは竜の砲撃じゃ! あんなのまともに喰らったら、この闘技場にいる全ての人が蒸発してしまうぞ!』


クロちゃんの叫びにタクミは驚く。


『制御されてるんじゃないのか!?』

『わからん! もしかしたら制御出来ていないのか、それともわざとなのか?』


「は!そのような砲撃!我等三兄弟が防いでくれようぞ!」


皇太子以下、兄弟王子達は自分が持つ盾に魔素を込め始め、耐性を高め、防御陣形になりその攻撃を受け止めようとする姿勢をとった。


『え?あの王子達、そんな度胸があるの?』


フラムが不思議がる。

タクミも今までの話しや、ちょっとしか会っていないものの、そんな英雄みたいな態度をとるような人物とは思わなかった。


『へえ、なかなかあの三人も凄いじゃないか。それとも、あの装備に自信があるのかな?』


タクミが感心すると、ヴェルデが悪態をついてきた。


『そんな事、あるわけないじゃない! 普段なら、あの三馬鹿は真っ先に逃げてるわよ』


ヴェルデがそういうなら、そうなんだろうと思うタクミ。

そういえば次男のカルルド殿下の足がさっきより大きく震えているように見える。


『何か企んでいるのか?』


タクミは嫌な予感を覚える。


『ヴェルデ、フラム、カーリー、それにエルとシロ。念のため、競技場と観客席の間に防御結界を発動出来るように準備しといて』

『了解。解ったわ。タクミ君気をつけて』


カーリー達がタクミの指示に頷く。


「グウウウオオ!! ブウォーーーーー!!!!!」


次の瞬間、真竜の口から莫大な光の線が放たれ王子達に向かうと思ったが。それは右にそれ競技の参加者の一団とその前に立つタクミ目掛けて飛んできた。


「うお!!」


咄嗟に、防御結界を全面に発動させるタクミだったが、タイミングが少し遅くタクミの周囲にしか展開出来ず完全に防ぐ事が出来なかった。

防ぎ切れなかった竜の砲撃の一部は周囲に散乱し、大爆風を引き起こす。

その威力に、周囲に散らばっていた参加者は吹き飛ばされ、その殆どが競技場外へと叩きだされてしまった。


『エル! 他の参加者で、死亡した者や重症者は出ているかわかる!?』


タクミは自分は無傷である事を確認したが、思った以上に威力を抑え切れず、周囲に拡散させたしまった竜の砲撃の犠牲になった者がいないか心配になりエルに鑑定させた。


『タクミ様、とりあえず命に関わる重症者はおりませんが、かなりの者が戦闘不能のようです』

『そうか、良かった』


死者が出ていない事にホッとするタクミ。


「しかしなんて事しやがるんだ。防いでいなかったら何人かは死んでたぞ?」


タクミは平然と立つ三王子を見ながら呟いた。

そして何やら三人が話している様だったので、聞き耳をたてた。

タクミも含めた奥さん達も少し離れた人の会話を、その人の口の周りの魔素の振動を感知して言葉に変換する魔術で聞く事が出来ていた。


「く、なんだあの男は! 何故、真竜の砲撃を喰らってなんともないんだ!」

「兄上!どうします? 本当ならこの一撃で、私たち三兄弟以外、全滅させているはずだったのですよ? それが、死人はおろか、結構な人が残ってしまってますよ!」

「兄様、大丈夫ですよ。あの者が言ってたじゃないですか。これも想定内ですよ。とにかくあれだけの砲撃を防いだんです。もう魔力も尽きてまともには動けないはず。その間に、僕達であの真竜を手筈通りに殺せばいいですよ」


上二人の狼狽ぶりを余所に、三男のグドエルドが冷めた笑みを浮かべながら進言する。


「わ、わかっておるわ! お前に言われんでも、そうしようと思っておったわ!」


慌てて取り繕う皇太子セレイド。


「あの者の言うには、あの呪縛紋には真竜の防御力を大きく薄める術式が施されていると言うことだ。今に我等の装備なら、殺すことも可能らしいからな」


セレイドの言葉に頷く二人。


「今なら他の参加者も動けませんし、あのタクミと言うのも動けませんから、真竜をゆっくりなぶり殺しましょう」

「ああ、あの真竜、あの小僧を殺す事など出来ないと言わず、我等の支配下のもと殺すと言っておれば死ぬことも無かったのにの」

「そうですな。呪縛を維持するのに魔導士がいくらいても足りませんからね。ここで殺しといた方が面倒が無くていいですよ」


「え?なんだ?」


タクミは、三王子の話しを聞いて不快に思うと共に、あの小僧を殺すことを拒否したと聞いてその小僧って言うのは自分の事なんだろうと確信できた。

そう思って真竜の顔をもう一度見る。

そこには怒りの表情で眼下を睨んでいるが、その眼からは光る涙のようなものが浮き出ている様に見えた。


『みんな、今の三王子の話し聞こえた?』

『はい!』

『僕ね、あの真竜助けたいんだけど強力してくれる?』

『タッ君ならそう言うと思ったよ』

『タクミ君はやっぱりやさしいね』

『良いわよ。あの馬鹿三王子の思惑通りにはさせないわよ』

『ありがとう』


タクミはみんなに感謝して改めて真竜に相対する。


「君がどうして僕を庇ったのかわからないけど、そう思ってくれた子を見殺しには出来ないよね」

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