公爵令嬢争奪真竜対決 7

「それではこれより選考会を開始致します。競技場の中央地下より、真竜が登場しますので、皆さんはその真竜と対決し、戦闘不能になった参加者を除き、傷を多く負わせた者か、殺した者、もしくは戦闘不能にした者を勝者と致します。戦闘は2時間の制限を設けますので、明確な勝敗がつかない場合は、終了時点で脱落者以外の方の功績を審判魔道士のチェックで確認致します。他に質問はありませんか!?」

「はい、その審判は正確なんでしょうか? 300人近い人間の優劣なんてどうやって判断するんです?」


一人の老齢な人物が選考会の審判方法について質問を始めた。

あんなお爺ちゃんも出るのかとちょっと驚くタクミ。


「それは、現在300人近くおられますが、真竜と戦ってこの全員が残るはずもありません。あくまで脱落者はどんなに好成績でも、対象にはなりませんので、最終的に残っている者だけをチェックすれば問題ありません。」

「つまり途中経過はあまり重要視されないと思っておればいいのかな?」

「そうですね。でも真竜に一太刀でも入れる方は必然的に注目されますから、優位ではあると思いますよ。」


司会の男性の言葉に、頷く参加者達だった。


「他、質問はありませんか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「では、無いと云う事で、選考会を開始いたします!!」

「ドーン! ドーン!」

「ウオオオオオオオ!!」


司会に開始の合図にドラの音がコロシアム中に鳴り響き、観客の大声援が否応もなく参加者を高揚させていった。


「ドーン! ドーン!」


鳴り止まないドラの音がだんだん早くなって行く。

それに合わせ、コロシアムの再奥、王侯貴族が観覧する特別席にバルコニーから見て右奥から5m四方はあろうかという鉄格子で囲われた大きな檻がゆっくりと浮上した来た。


「あれが、真竜・・。」


地上に現れた檻の中には、全体は青黒い鱗で覆われ、目が赤く光る巨大な生物が居た。

その生物はこの檻でも小さそうに体を縮こませているが、その目は参加者の方に向かってじっと睨み微動だしていなかった。


「さすがに、迫力あるね。」


タクミは独り言は本心だった。

今まで、魔人族や鬼族と相対して来たが、そのどれとも違う迫力と。威圧感を感じずにはいられなかった。


「これを感じると、人間にこの生物を御するなんて無理だって解るね。」

「バーン! バーン!」


突然ドラムの大きな音が響いてそちらに一瞬気を取られていたら、竜を閉じ込めていた鉄格子の檻の一面が真ん中を境に、両側へと開いていった。

完全に開ききると、それを待っていたように中の真竜が体を重そうに揺らし、表へと歩き出してきた。

一歩づつがドシン、ドシンと地響きを発てながら歩く姿に、幾人かの参加者は地べたに腰を落としていた者がいた。

そして幾人かは、競技場を下り、通用口へと足早に消えていった者もいた。


「2、30人は逃げたね。」


タクミは冷静に周辺の状況を確認していく。

タクミの近くにいるものは、逃げる事は無かったがその殆どが顔を青ざめさせ、体も震えている者が多かった。


「しかたないか。僕もこの圧力に冷や汗が出るからね。」


タクミも独り言を呟いてなんとか冷静に対処しようと、暗示をかけていた。


「それにしても、いっこうに動かないな?」


そうやって身構えているタクミだが、真竜は特に攻撃するわけでもなく、檻を出てからは睨んで来るだけで動こうとはしていなかった。


『タクミ様!!』

『どうしたのエル?』

『はい!この真竜の首元を見てください!』


そう言われたタクミは、背中や手足に防御力高そうな黒い鱗とは違う白っぽい鱗に覆われた首元を見つめた。


『なんだ? あれ? 何かの紋章が浮かんで緑色に光ってるぞ!』

『はい!あれは予測ですが、呪縛結界を紋章化しているのではと思います。』


エルの言葉にタクミは、これが王族が支配下に置いているいう根拠なのかと。

でも、何かが違うとタクミは思った。

大体、人間風情が竜を従えるなんて無理って話しだったではないか。


『クロちゃん!』

『あ!タクミさん、どうしたんです?』

『今、会場にいるようね?』

『はい、観客席の前列で見させてもらっとるよ。いやあ、人族のお祭りは中々に派手ですな。人の熱気が凄くて驚いきですじゃ。』


何十年と封印されていたので、こいう祭みたいなものをクロちゃんは物凄く楽しみにしていたようだ。


『ごめん楽しんでる時に、クロちゃん。ちょっと、真竜の首元を見てもらえない?』

『え?首元ですか? えーっと、あ!あれは呪縛紋ですな。しかもかなり強力そうじゃよ、何より意思操作の図形も入っているようだぞ? ただ、わたしもこんな強力な魔術紋は今まで見たことがないぞ。』


クロちゃんがその紋章を確認し解説していく内に自分でもこれが普通のものでは無い事に気付いて驚いているようだ。


『こんなの人族で出来るとは思えん! それにこんな強力な魔術を維持するのにどれだけの魔素を供給し続けなければいけないか検討もつかんぞ。下手すれば魔導士の命に関わるかもしれん。』


クロちゃんの穏やかでない説明にタクミは驚く。


そんな魔術を王族がやったって言うのか?


タクミ達は前にいる真竜もそうだが、それを押さえ付けるあの強力な呪縛紋にも恐怖を感じていた。

そうしてタクミ達が観察している間も真竜は動こうとしなかったので、一部の参加者が動きだそうとしているのをタクミは感じとった。


「待て! 君達! 不用意に攻撃するな!」


しかしタクミの注意も聞こえなかったのか、魔導士の一人が火属系の攻撃魔術を放ってしまった。

ドーーン!!! と云う爆音と共に真竜を包み込む炎が立ち上がった。

今度はそこへ、剣士が数人、呼吸を合わせたように剣を突き出し突進して行く。

その動きに合わせ、炎は一瞬で消え、剣士の刃は真竜でも鱗の少ない関節や脇、内股を狙って一斉に突き刺していった。

タイミングは完璧だった。


「な!?」


数人の剣士が叫んでその状況を受け入れられないでいた。

それもそのはず。

自分達が突き刺したはずの剣は、1ミリたりとも、真竜の革に傷を付ける事が出来ていなかったのだ。

それでも、剣士は懐に入った事をいかそうと、剣に魔術まで載せありったけの力で振り下ろす。

何度も何度も、数人の剣士が足元周辺を徹底的に斬りつける。

その間に何十人もの魔導士が、各々の得意の魔術を展開し首より上に集中し攻撃魔術を打ちまくっていた。

その攻撃が数分間、休み無く続き、辺りは爆炎や水蒸気で視界が悪くなってしまっていた。


『タクミ様!来ます!』


エルの叫びにも似た声に、タクミは咄嗟に身体強化と耐性強化を全開にし、後方へ大きく飛び退いた。


「!!!!!!」


その瞬間、霧の様に視界が悪くなった奥から黒く長い物が円を描くように物凄い勢いで現れた!

それは轟音と共の周回し霧を吹き飛ばしていった。


「グアー! ゲ! キャア!!」


それと共に人の悲鳴があちこちから聞こえる。

放射線上に霧が吹き飛ぶのと一緒にその場にいた魔導士や剣士が数十人吹き飛ばされてしまったようだ。

タクミは大きく後方に避難した為、直接は損傷は無かったが、100メートル先くらいに着地したタクミにも強い風邪が飛んできて、体を持って行かれそうになった。


「なんて馬鹿力なんだ!?」


タクミはその爆風の中心を凝視する。

そこには傷一つ無い黒い真竜が平然と立っていた。

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