入学 5
呆気なかった。
キーザ君は今、演習場の入口に近くにある、休憩用の長椅子に座り、項垂れていた。
それもそうだろう。開始の合図と共に挨拶無しで一気に突進し大上段から大剣を振り下ろしたキーザ君に対して、片手でキーザ君と同じ大きさの大剣をいとも簡単に振り上げると、キーザ君の剣が大きく弾かれそのまま体ごと十数メートル飛ばされてしまったのだ。
そのままキーザ君が気を失い試験は終了した。
「なかなか良い重さの振り下ろしでした。でも、体重の乗せ方が悪いですね。あれでは次の動作に移るのに要らない時間が必要となってしまい、隙を作ってしまいます。その辺りを今後注意する事。」
丁寧にキーザ君に説明するグランディール会長だが、その言葉はぶつぶつと呟いて下を向くキーザ君には届いていないと思います。
「続いて、キルバ・ラウェリス前へ」
コーナル先生がキルバ君の名前を呼ぶ。
「すみませんが、私は辞退させていただきます」
「?!どうしてですか?」
「キーザ様が敵わない方に私が何をしても無駄ですので」
「これは、勝ち負けでは無く今のあなた達の技量を図るものですから、無駄ということはないのですよ?」
「危うきに近寄らず、とも言うでしょう? 引く決断力も必要と思いますが?」
まったく戦う意思を示さず辞退を申し出るキルバ君。
絶対にその力量はキーザ君には悪いが、彼の方が上のはずなのだけど。
それを、さもキーザ君の方が自分よりも上だと主張するのは、仕える者の気遣いなのだろうか?
「判りました。そこまで言うのであれば辞退を了承致しましょう」
先生にそう言われ、一例をして再びキーザの側へと戻るキルバ君だった。
「では次、カーリー・マリガン」
先生は続いてカーリーを指名してきた。
「はい! よろしくお願いします!」
元気良く、返事をすると意識を集中させ召喚陣を後方に出現させる。
白く輝く召喚陣から白狼王のシロが召喚され、その姿を表す。
「ほー、凄いですね。そのお方は聖獣様ですか?」
「はい、白狼のシロと言います」
グランディール会長は、シロを見て見惚れているのだろうか?
直立したまま、シロをじっくりと見回しているようだ。
「聖獣様にしては格が高いような気配がしますが、神獣ではないのですか?」
この人、侮れないぞ。
シロも隠蔽魔術で魔素量や神力を抑えて出現させているのに、言い当ててきた。
「は! 白狼の神獣ってほんまですか?!」
急に大きな声を上げて驚いているのはルゼだった。
「神獣白狼様は、女神エルカシア様の眷属で一番近い存在なのですよ? おいそれと人族が使役出来るものじゃありしまへん!」
おー危機迫る感じで訴えてきてるよ。
カーリーどうしよう?
「でも、この子、神獣じゃなくて聖獣だよ?」
「それでも白狼種はエルカシア様の御使いとして崇められる存在なんやから勝手に使役されても困るんやけど。」
ルゼは本当に困った顔をしてカーリーに訴えかけていた。
確かに、自分達が崇拝する女神様の片腕の様な存在である白狼を人が使役してしまうのはルゼにとっては複雑な気持ちなのだろうな。
「ルゼリアさんでしたか? 取り合えず試験を進めたいので話ならその後でお願いします」
凛とした声でグランディール会長に言われると嫌とは言えないみたいで渋々ルゼも了承する事になった。
改めてグランディール会長とカーリーが向き合い試験の合図を待つ。
「それでは双方準備は宜しいでしょうか?」
二人は先生の言葉に無言で答える。
「これよりカーリー・マリガンの試験を開始致します! 始め!」
先生の声が僕たち以外居ないグラウンドに木霊する。
だが二人は身構えたまま動こうとはしない。
グランディール会長は剣を正眼に構えカーリーを圧力を掛けるが、カーリーも身構えたまま目をグランディール会長から離すことなく見据えている。
一見。会長は剣、カーリーは拳闘スタイルでカーリーの方が不利に見えるが、後ろにシロを控え多重攻撃が可能である事を会長は解っているようで簡単に攻め込めないようだ。
「なんて隙がないの。たしかあの子まだ10才よね? 私と3つも年が違うのにあの圧力はなんなの?」
グランディール会長は心の中でカーリーの内面から出る力を感じ体が動けないでいた。
実際、カーリーの魔素量やそれを放出できる繊細な操作が数日前、トネ村を出た頃とは雲泥の差なのだ。
今、カーリーは元からある魔法の元素にタクミから光と闇の元素を貰い、魔素量もシロを使役する事でシロからの膨大な魔素を共有する事が出来る様になった為、タクミの支援魔法無しで、強化系も耐性系もその身に掛ける事が可能になっていた。
はっきっり言って、事、戦闘に関しては現時点でタクミはもちろん、フラムより上かもしれなかった。
「カーリーどんどん強くなっていくな。さすがは、ジェナさんの娘というところかな? フラムもヴェルデもいずれ僕から力を受ける事になるのだろうから、僕の奥さん達、元の力を取り戻すのもそんなに先の話じゃないだろう・・・旦那さんとしてやって行けるんだろうか?」
そんな不安が脳裏に過ったが、それはそれで悪くないだろうし、そこまでして僕を待っていてくれた事が嬉しかった。
しかし、いつまでこの二人は睨み合い続けるつもりなんだ?
ただただ時間だけが過ぎて行くていった
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