ラングトン大学 試験編 4
ギィャーーー!!
ドラゴモドキの断末魔が大小様々な石と岩が無数に転がる小山全体に響き渡る。
「あ、あいつスゲー、ウォーターソードで一発だぜ!」
十数人の男女の中の1人が今目の前で起こった事に驚愕し、無意識に言葉を発していた。そんな人が輪になって取り囲むその中心に、今、断末魔をあげたと思われるドラゴモドキが横たわり、それを黙って見下ろす男の子が1人佇んでいた。
「へ、へ、なあ~んだ、こんなに簡単に死ぬんだ。何がドラゴンだ。もう僕の敵じゃないね。へへ、えへ、へ、へ」
薄気味悪く笑う少年は自分が倒したドラゴモドキを踏み付け更に優越感に浸っているようだった。
「君、凄いじゃないか!」
周りで見ていた少年少女の輪の中から一人の少年が不気味の笑う少年の方に歩み出て来た。
「僕はキーザ・ブルド。ブルド辺境伯の次男にして、将来王宮騎士団に入る男だ。どうだ?僕の護衛として雇われないか? 報酬はいくらでも出すぞ。働きによっては、そのまま僕の側近となって、将来王宮の重要なポストに就けるよう働きかけてやってもいいぞ。どうだ?」
あたかももう決まったかの様に話すキーザ。
「はあ? お前何を言っているんだ? この場でぶち殺してやろうか?」
キーザの言葉が不快だったのか、先ほどまで、にやけていた顔から表情が無くなり、ただ冷たい視線を投げる少年。
その威圧に押され数歩下がるキーザ。
「なっ! なんだその態度は! 僕はブルド辺境伯の次男だぞ! その僕に対して不敬をはたらいて良いと思っているのか!」
一方的な言い分を押し付けるキーザに周辺にいる少年達も嫌な顔になるが、不敬と言われた少年の顔はそれとは反対に冷静な面持ちでキーザを睨みつけていた。
「不敬? 俺がか? はん! 笑わせてくれる。この圧倒的な力を手に入れたこの僕に、君みたいな弱い人間が何を言ってるんだ? その気になれば、このドラゴモドキの様に、一瞬で君の頭と胴体を切り離す事が出来るんだよ。口の利き方に気をつけるのは君のほうだろ?」
得体の知れない雰囲気にキーザの顔はサーッと青ざめていった。それは周りを取り囲む様に見ていた少年や少女も一緒だった。
「そうだ!良い事を思いついた。君達、僕の子分にならないか? そうしたら、この下らない試験に僕が手助けしてあげるよ。」
少年の提案に皆一様に困惑する。確かに協力してドラゴモドキを倒せれば、入学を確実にする事が出来る。特に、入学証を持たない入学希望者にとっては願ってもない事であるはずだったが、それを躊躇わす雰囲気を少年から感じていたし、頭ごなしに子分になれと言われるのに不快感を感じていた。
「子分だと!? このキーザ・ブルドに対して失礼にも程がある! 勝手に1人でやってれば良いだろう!」
「そうだ!キーザがどうとかは関係ねえけど、子分だの手助けだのちょっと強いからと言って生意気言っているんじゃねえよ!」
「そうよ!あなた何様のつもりなの?」
キーザはともかく、周辺にいる少年や少女も、その少年の言い分を聞き入れるつもりはなかった。いくら入学出来る確率が上がっても、自分と同い年位の子いきなり子分になったら手助けしてやると言われ、はいそうですかなんてプライドが許す訳がなかった。
「はあ~あ? 生意気? 何様? この俺がか? それこそ誰に向かって口利いてんだ?おい!」
今までどちらかというと無表情だった少年の顔が醜く歪み、上から目線で人をこれでもかって位見下した表情に豹変する。それに気圧されたのか皆が少年より数歩後ずさる。
「もういいや。俺一人で十分強いし、お前達要らないや。入学を確実にするには人数が減ってくれた方が良いよね? あんたら、消えてくれる?」
そう言うと、右手を顔の前にかざし始めた。その右手の甲には小石程の紫色をしたクリスタルが付けられており、それが徐々に黒く、くすみ出して来る。周辺の魔素がそのクリスタルに吸い込まれているようだ。
「お前ら、そのままじっとしていろよ。今、この周辺一体をお前らと一緒に消してやるからな」
「ひっ!」
一人の女の子があまりの威圧に悲鳴を上げ、その場に尻餅をついた。
その瞬間だった。少年や少女と達と、異様な魔力に包まれ始めた少年との間に数人の教師が風の様に現れた。
「そこまでだ! ミッシェル・ヘイズ! その力をおさめなさい!」
「ん? なんだ先生方ですか。俺の合格宣言をしに来てくれたんですか? 当然ですよねえ」
自信満々に話し出すミッシェル。
「ミッシェル! 君の魔術力は確認した。我がラングトン大学に入学するに十分な実力があると我々も判断した」
「はっ、そうですよね。先生方もそう思いますよね。なのにこいつら、俺の言う事を全然聞かないんですよ」
本当に困ったと言いたげな態度をとるミッシェル。
「1つ聞きたいのだがミッシェル・ヘイズ。私達が来なければ此処にいるこの子等を殺していたのか問いたい!」
「何故、そんな事を聞くんです? 弱い者が少くなれば、先生方も要らぬ手間が省けて嬉しいんじゃないですか? そうです。そうですよ! この俺が先生の手助けをするんです! これで入学は間違いない! これでカーリーも俺のものだ!」
ミッシェルの言葉は自分の勝手な思い込みに走り始める。どこか、頭のネジが抜けた様な、普通では無い様子になり始めていた。
「ミッシェル・ヘイズ。君の言動は常軌を逸し性格に重大なる問題が有ると判断し、不合格といたします。それと共にミッシェル・ヘイズを潜在異常者として拘束致します!」
教師の代表者が、ミッシェルへの対処を声高々に周囲に周知させる。
「はあ~ああ? 今、何て言いました? 俺が異常者? この俺を拘束するだって? い、いい加減にしやがれ!!!!」
ミッシェルが大声で怒鳴ると、右手の甲に輝くクリスタルが真っ黒になった。
次の瞬間、そのクリスタルから黒い糸の様な物が幾重にも重なり合いながら吹き出しはじめた。そえは徐々にミッシェルの体に纏わり付き入れ墨の様な紋様を体中に作り出し始める。目は血走り、こめかみ辺りからは浮き出た血管からあ血が吹き出す。
あまりの異常さに教師も少年達も言葉を失いただ呆然と見ているだけになっていた。
そんな中、リーダー格の教師が正気を戻し言葉を発した。
「緊急警戒!! ライア! しっかりしろ!!」
「は?! はい!」
「君は入学希望の少年達を率いて本部に戻り報告と緊急警戒体制に入るよう指示してくれ! 残りの者は、この者を抑える為、結界術の準備!」
「「「はい!!」」」
その言葉と共に少年達の近くにいた教師が、ライアの方へ誘導し始める。集まった少年少女はそのままライアと共に本部の方へと急ぎ足で後退し始めた。
「ミッシェルとか言ったな! 僕は負けた訳ではないぞ! 戦略的撤退をするだけだ! 覚えておけー!!!」
キーザ君、逃げ出しながらも負けを認めないとは、ある意味大物なのかも。
その間にもミッシェルの異様さは増すばかりで、体を覆っていた黒い紋様は所々が青く光、目つきは鋭く尖り、人というよりは獣の様だ。
「五方結界を発動する! 各属性の教師はそれぞれの配置に移動!」
リーダー格の教師の命令で、ミッシェルを囲む様に5人が素早く等間隔に並び始めた。
「各人属性発動! 魔術式展開! 五方結界起動!!!」
起動の言葉と共に、ミッシェルを中心に五芒星と魔法陣が現れ、魔素の流入と魔力の放出を遮断する。
魔法陣を境に外界と遮断された空間には辛うじてミッシェルと解る人の様なものがうごめき、その体からは常に黒い霧の様な物を噴出し続けていた。
やがてその霧は結界に覆われた空間に充満しミッシェルの姿もその黒い闇の中にかき消えていった。
「班長!結界が歪み始めています! このままでは!」
班長と呼ばれたリーダー格の教師も自分の力を降り注ぎ結界の維持に努めるも、徐々に綻びは大きくなっていた。
「くっ!!」
班長の苦痛の言葉が出たと同時に結界の壁にひびが入り、歪みが大きくなったその瞬間、中から爆風の如く黒霧が放出され、教師達を飲み込もうとしたその時!
「あんた! 先生方に何しようって言うのー!!」
上空から女性の声が聞こえたかと同時に、教師達の目の前を何かが地面より勢い良く競り上がり、黒霧の爆風を寸でのところで防御してみせた。黒霧の爆風が終わるのと同時にその地面から競り上がった、木の根の様な物も再び地中へと戻っていった。
後に残るは、尻餅をついたり、方膝を地面につけ息絶え絶えの教師達と、黒霧が無くなりその姿がはっきりと解るミッシェル。そして、今の術を展開させ、ミッシェルに相対するように地に仁王立ちの姿を見せる女性が一人。
「ヴェルデ・カーナイン主任教師の名において君、ミッシェル・ヘイズを一級危険対象に認定し拘束いたします!」
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