戦士と南方大陸4
闇が深まる深夜。茂みに潜み先の様子を窺う。
拠点を囲う外壁の上では騎士らしき者達がうろついていた。
装備は先に溶岩遺跡で闘った者達と同じである。敵はクリスナダムで間違いないようだ。
まだ制圧して間もない為かどの騎士も気が緩んでいる様子だ。
「奴らめ! 我らの拠点を我が物顔で! 許さぬ、今すぐ成敗するでござる!」
「待てって。先走るのなしじゃん。で、どうするつもりじゃんよ団長」
タキギが走り出そうとするチバの肩を掴んで押さえつける。
連れてきたのはタキギ、ベナレ、そしてチバだ。
今の漫遊旅団の拠点にはネイと多くの団員もいる。カエデ達にベヒーモスもいるから防衛に関しては心配無用だ。
さて、ここまで来たもののクリスナダムの目的はまだ不明だ。
遺物を狙って襲撃してきた、というのはイーザス側の言い分であり、クリスナダムが何を考えてこのような暴挙に出たのか判然としていないからである。もしかしたらイーザス側に原因があってクリスナダムがやむを得ず対処した可能性もある。
「とりあえずスパイクと話をする。闘うかはそれからだ」
「拙者との約束は!?」
「協力はする。衣食住の保証くらいはしてやるさ」
もしクリスナダムの主張に正当性があってウチに危害を加えない話なら、協力は極めて個人的な間接的なものとなる。とはいえ向こうにはいきなり攻撃してきたあのスパイクがいる。まったく非がないなんてことはあり得ないだろう。
「同行するのはベナレとチバ。タキギは合図があるまで付近に待機だ」
「承知」
「あいよ」
「ござる」
三人は短く返事をして動き出した。
「よっこらせっ、と」
ひと殴りでイーザス拠点の門を破壊する。
轟音に騎士達が剣を抜いて殺到した。
「何者だ! ここをクリスナダムの拠点と知ってのことか!」
「スパイクと話をしたい。俺は漫遊旅団のトールだ」
名乗っただけで騎士達はどよめき後ずさりする。
しかし、動揺したのはほんの一瞬だった。再び武器を構え闘志を示す。
俺の名を知っていながらそれでも立ち向かうのか。舐められているのかはたまた騎士としての覚悟なのか。先にあったスパイクの件を考えるに前者だろう。
「おやおや~? 漫遊のトール殿じゃないか。先日は世話になったねぇ」
「まるでこっちが悪いみたいな言いぶりだな」
騎士をかき分け現れたのはスパイク・スターズだ。
相変わらず大鎌を携え薄笑いを浮かべている。
チバが反応し刀を抜いた。
「よくも仲間を!」
「仲間? ああ、このゴミ共か。抵抗なんてせずにさっさと逃げ出してれば死なずにすんだのになぁ。無駄に命散らしてご苦労さん。ぎゃはははっ」
地面に横たわる冒険者の死体の顔をスパイクは踏みつけた。
一方のチバは憤怒の表情で刀を持つ手を震わせる。
「これはクリスナダムの方針なのか? 殺してでも奪えと命じられたと?」
「正式な命令さ。それも王命だ。俺様達は集めた遺物の力で大陸にはびこる魔王共を一掃し正義をしらしめなければならない。その為にはどんな手段を使ってもいい。残念だったなぁ。何をしても全て許されるんだよぉ」
マジかよ。本気で各国と事を構えるつもりだったのか。
クリスナダムはいかれてる。
「ところで漫遊。来て良かったのか? まさかここにいる戦力が全てとか思ってないよなぁ」
「貴様! 我らの拠点に!?」
「ぎゃはははははっ! 逃がした奴らはてめぇらをおびき寄せる餌だ! 俺様はねちっこくてね、泥を付けられたままなのが耐えられねぇのさ。徹底的に破滅させて後悔の中で殺さねぇと気がすまねぇんだ」
なるほど。チバ達はわざと逃がされたのか。
だが、俺が彼らを必ず助けるとは限らないと思うのだが。見捨てるとは考えなかったのだろうか。
「てめぇは一度俺様に勝った。そこのサムライ野郎の話を聞いた時、余裕でイーザスの遺物を総取りできると考えたはずだ。俺様は撒き餌とはしらずにのこのこやってくるてめぇを待ってるだけでよかったのさ」
ああ、遺物があったな。チバがもし『遺物がほしくないか』と交渉の場を求めていたなら見捨てるのは難しい。情報をもらえるまで丁重に扱うだろうし、その後も案内役として活用するだろう。スパイクはチバが漫遊旅団を頼るように誘導するだけでよかったのだ。
ただ、実際は遺物とは無関係に保護してしまったのだが。
「クリスナダムの考えは理解した。やっぱり放置できないな」
「この時を待ってたぜ。おニューのこいつでてめぇの首を切り落としてやる」
大鎌は真新しい刃で光を反射した。
刹那の一閃。大鎌を紙一重で躱しつつ一歩下がる。
「速すぎてびびっちまったか? だったらもっと驚かせてやるよ」
どすん。どすん。
スパイクは両腕にはめていたガントレットを外す。
見た目からは想像できないほど重量があったらしくガントレットは地面にめり込んだ。
「貴様の相手は拙者だ! 仲間の仇!」
「邪魔だ、サムライ野郎!」
「――ぎゃぁあっ!?」
前に出たチバが一瞬で斬られた。
大鎌によって刀は砕かれ肩から斜め下へと斬られた箇所から血が吹き出る。
先ほどよりも数段速い。
「チバ!?」
「無念・・・・・・拙者を置いてせめて貴殿らだけでも生き延びるでござる・・・・・・むぐっ!?」
ハイポーションの栓を開けてチバの口に瓶を突っ込む。
怪我人だから闘わなくていいと言っておいたのだが。こいつを守りながら闘うのは面倒だ。しばらくどこかで休んでいて貰おう。
「あっちで見物していてくれ」
「ぬわぁぁああああああっ!? ご無体な!」
チバを掴んで遠くへ投げる。
そこそこレベルがあるので落ちても死にやしないだろう。
「囲め! こいつらを絶対に逃がすな!」
騎士達が俺とベナレを取り囲んだ。
「逃げるつもりなんて微塵もないさ。ベナレ、タキギ、こいつらを片付けろ」
「団長ずるい。そいつ強そう」
「いいからやれ」
彼女の三節棍が宙を走る度に、騎士は盾ごと鎧を砕かれ飛んで行く。
敵の後方で黄色い煙が発生。タキギお得意の麻痺性の煙だ。動きが鈍くなった騎士達をタキギは折りたたみ式の小型弓で確実に仕留める。
「ロー助、援護してやれ」
「しゃあっ!」
さらにロー助の攻撃が敵を追い詰める。
数の優位を簡単にひっくり返されたスパイクは怒りを含んだ表情で歯噛みした。
「クリスナダムの騎士達がたかが冒険者ごときに負けるだと? なんなんだ貴様!」
「ただの戦士だよ。可愛い妻と子供がいるおっさんだ。カエデの晩飯を食いたいからさっさと終わらせるぞ」
背中の聖剣を抜く。
刀身の目映い輝きが辺りを照らした。
「ああああ、そんな、これほどなんて、聞いてない・・・・・・」
一振りでスパイクは蒸発した。
聖剣を鞘に戻したところで騎士もほぼ全滅したようでベナレとタキギは暇そうにしている。
「お疲れ様じゃん。何人か逃がしたからクリスナダムもしばらくは手出ししてこないじゃんよ」
「そうか。これで考えを改めてくれればいいんだけどな」
「ほとぼり冷めた頃にまた来るじゃんよ」
その時はその時だ。もし来ても漫遊旅団は今よりももっと強固になっているだろうしな。
さて、拠点の方もカエデ達のおかげで片付いている頃だろう。
「そうだ、イーザスの遺物をいただいておかないとな」
「ござるは?」
「戻ってきたじゃん」
チバが泣きそうな顔で木の枝を杖代わりにふらふらと歩いていた。
「投げるにしても手加減してほしいでござるっ!」
あ、ごめん。
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