82話 魔王城への突入2


 だだだだ。

 長い階段を駆け上る。


 スカルドラゴンを倒し、俺達は五層へと至っていた。


 ロー助が現れる魔物を次々に排除する。


 ここは無数の魔物が徘徊する危険な場所だ。

 しかも全体的にレベルが高く厄介な奴らが多い印象。


「フラワーブリザード」


 ぴしり。カエデの魔法がポイズンモスやフレイムゴーストを凍り付かせる。

 すかさずフラウがハンマーで粉砕。


「きゅう!」


 使役メガブーストで強化されたパン太が、ミノタウロスに体当たりする。


 敵は壁まで弾き飛ばされ衝撃によって気絶した。


 ロー助ほどではないが、パン太も戦おうと思えばそこそこできるようだ。

 しかし、一度に一匹しか相手にできない上にモーションが大きいので、あまり前に出すべきではないな。


 現在のレベルはこうだ。


 トール 305→310

 カエデ 315→335

 フラウ 300→328


 すっかり追い抜かれてしまったな。


 だが、ジョブやスキルのおかげでそこまで差は感じない。


 それにムゲンのじいさんから得た技術もある。

 総合的にはまだまだ俺の方が強いくらいだ。


 地図を頼りに通路を進み続け、ドーム状の大きな部屋へと出た。


「ブフゥウウウウウッ!」


 部屋の中央には大きな魔物がいた。


 身の丈は五メートル、隆起した筋肉と赤い毛が目をひく。

 その頭部には太い角があり、右手には鎖の付いた鉄球がぶら下げられていた。


 グレートミノタウロス――ミノタウロス系の上位種だ。


 奴は俺達を見るなり興奮したように咆哮した。


「ブモォオオオオオオ!」

「鉄球が飛んでくる、避けろ」


 グレートミノタウロスが軽々と鉄球を投げる。

 素早く躱した俺達は、狙いを分散させる為に部屋の中で三方に別れる。


 じゃららら。


 猛スピードで鎖によって鉄球が引き戻され、大きく振りかぶってカエデを狙う。


「フラウさん」

「わかってるわよ!」


 真横からフラウがハンマーで敵を叩き飛ばす。

 背中から壁に叩きつけられたグレートミノタウロスは血を吐いた。


 すかさずカエデが風の刃で右腕を切断。


 それでも敵は血を滴らせながら、牙をむき出しにして吠える。


 どすっ。


 俺は心臓を一突きにした。


 生命力の強いグレートミノタウロスは、俺の頭へと左腕を伸ばす。

 胸から真上に切り上げ、奴の頭部を真っ二つにした。


「ご主人様、お顔に血が」

「ありがとう」


 カエデがハンカチで顔を拭いてくれる。


 まだ心身ともに疲れはない。

 このまま一気に地上を目指したいところだが、二人はどうだろうか。


「カエデもフラウも疲れてないか?」

「まだかなりの余裕があります」

「ぶっ続けで戦ってるけど、あんまり疲れてないのよねぇ」


 レベル300台ともなればスタミナも格段に上がるらしい。

 加えて出てくる敵が雑魚ばかりなので、精神的負担も少ない。


 ただ、どこにいても腹は減るものだ。


 ここらで小休止しておくか。



 ◇



 その後、俺達は三階層へと到達した。


 ここで一度足が止まってしまう。

 なぜなら進むべき道が水で満たされていたからだ。


 俺は地図を見て確認した。


「――どうやらここからしばらくは水路を進むしかないみたいだ」

「回り道はできないのでしょうか」

「俺もそれを考えたんだが、どう見てもここしか上に繋がっていないんだ」

「え~、水の中を進むの? 絶対何かいるでしょ」


 いる、だろうな。

 地図をみても水路はかなり長い。


 しかも上と繋がっているのはここだけ、強力な魔物を配置しない方がどうかしている。


 つまり最後の門番はここにいる。


「パン太、ロー助、付いてこられるか?」

「きゅう」

「しゃあ」


 二匹はいやいやと頭を横に振る。

 水は苦手らしい。


 こうなると、頼りにできそうなのはサメ子だけか。


 二匹を刻印に戻し、サメ子を出した。


「ぱくぱく~」

「予想だとこの先には敵がいる。だからお前に護衛を頼みたい」

「ぱくっ!」

「やれるのか?」


 サメ子は『任せろ』と言いたいのか、少し先を進んでからこちらに顔を向けた。





 薄く緑色に濁った水の中。


 俺達はサメ子を追いかけるように泳ぐ。

 

 カエデの魔法のおかげでそこそこ見えるが、視界は良好とは言い難い。


 一応、水中呼吸のスクロールで息継ぎの心配はないが、水によって動きは制限されているのでいつものような素早い反応はできないだろう。


 ちょんちょん。

 カエデが俺の腕をつつく。


 どうやらこの先に敵がいるようだ。


 サメ子も気が付いたらしく、警戒するようにと振り返った。


 正面から大きな物体が近づく。

 動きはひどく緩慢で魚のように体をくねらせていた。


 あれを知っている。


 かつて一度だけ見たことがあった。


 青い鱗に覆われ、腕や足には水かきがある。

 頭部から尻尾にかけて背びれがあり、口元にはナマズのようなひげがあった。


 正統種のブルードラゴンだ。


 グォオオオオオオ。


 奴の咆哮は、びりびり水を震わせた。


 ヤバい。地上ならともかく、水の中でブルードラゴンを相手するのは危険だ。

 カエデもフラウも顔に焦りを浮かべていた。


 だが、サメ子はひるむことなく、動きを止めたブルードラゴンに正面から挑もうとしている。


 ぱくぱく~。


 サメ子の体から無数の棘が発射される。

 それらはブルードラゴンに突き刺さった。


 いけるかもしれない。


 俺はサメ子に使役ハイブースターを使う。


 メキメキメキ。


 サメ子の体が急速に膨らみ肉体が増強される。

 ピンクの体は赤みを増し、背部に八つの眼のようなものが出現した。


 次の瞬間、赤い光の線が背部より照射され、ブルードラゴンを貫いてしまう。


 なにその攻撃。

 サメ子ってもしかしてかなり強い……?


 べしっ。


 サメ子は尾びれでブルードラゴンの死体を退かし、口をぱくぱくさせて俺達が来るのを待つ。


 パン太この場にいなくてよかった。

 きっと猛烈に嫉妬しただろうな。



 ◇



 水路から上がり、サメ子を刻印に戻す。

 同時にロー助を出すが、パン太も勝手に出てくる。


「ううっ、寒いわ」

「すぐに乾かしますね」


 カエデは魔法を使って服を一瞬で乾かした。


 周囲を確認するが敵はいない。

 水路を上がった先は上へと続く階段があるだけだ。


 俺達は階段を上がり扉を開けた。


 再び陰鬱とした通路が奥へと続いていた。


 ここへ来てどれだけの時間が経過したのかは不明だ。

 昼も夜も分からない状態。

 はっきりしていることは、リサのいる地上に近づいていることだけ。


 心がざわつく。


 もうすぐ恋人だったリサと戦う。


 その事実はどうしようもなく悲しい。

 裏切られたと分かった今でも、まだ俺の知らない真実があるんじゃないかと疑ってしまう。


 けど、たぶんそれは俺の独りよがりな希望だ。


 信じたい物だけ信じようとする俺の弱い心。


 ぎゅっ。


 カエデが後ろから抱きしめた。


「ご主人様がどのような選択をしようと付いていきます」

「ありがとう。カエデ」


 行こう。前へ。





 がこん。


 地下一階層に到達。

 俺は大きな扉を開いた。


「待っていたよ、トール」

「セイン!?」


 地上に通じる階段がある大広間。

 そこでは百を越える魔族が待ち構えていた。


 そして、ニヤニヤしたセインが腕を組んで俺を見ている。


 以前とは少し変わり、奴は漆黒の鎧を身につけていた。


 あの鎧から嫌な感じがする。

 邪気ともいうべきおどろおどろしい空気が漂う。


「今の僕は以前とは違う。圧倒的力を手に入れた。もう、お前なんか足下にも及ばないんだよ」

「だったらどうして魔族の兵を用意した。一人で待っていればよかったんじゃないのか」

「保険さ。僕はお前を侮り過ぎていた。まさかお荷物がここまで急成長を遂げるなんて考えもしなかったからね。だから今度は全力で相手して――はぁ!? レベル310!?」


 セインは後ずさりする。


 ああ、なんだまだ鑑定するクセがついていなかったのか。

 一緒に組んでいた時、何度も相手のステータスを見ろって注意しただろ。


 思えばお前はずっと相手を侮っていたよな。


「お前達、しばらく足止めしろ! 倒した者は将軍にしてやる!」


 魔族達は武器を掲げて歓声をあげる。


 セインは兵を掻き分け地上へと逃げていった。


 リサの元へ向かったのだろう。

 それはそれで好都合だ。


「カエデ、フラウ、パン太、ロー助。片付けるぞ」


 俺は、背中の大剣を抜いた。

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