52話 戦士と奴隷と屋敷
がたっ。
女王が肘置きから肘をずり落とす。
玉座が倒れそうなところ騎士が慌てて支えた。
「まだ三日しか経ってないのだけれど?」
「でも倒した」
女王はポロアとリンに視線を向ける。
「確かにこの目で確認しました」
「あれが偽物って可能性はかなり低いにゃ」
「本当に三日で……」
彼女は玉座から立ち上がり、俺の前へとやってきた。
そして、俺の右手を取って両手で握りしめる。
「まさに英雄、民に代わり感謝します」
恥ずかしくなって左の指で頬を掻いた。
平民にとって雲の上の存在の女王が、自ら手を握りに来てくれたのだ。
大変光栄なことなのだが、慣れないことでつい照れてしまう。
ちらりとカエデ達を見ると、微笑みを浮かべて嬉しそうだ。
やっぱり主人が有名になるのは、奴隷としては誇らしいのだろうか?
目立たないようにしてきたが、もしそうだったらもう少しくらいは派手に活躍しても良いかもしれない。
いや、無理か。レベル301とかバレたら色々とヤバそうだ。
気が付けば女王がブツブツ呟いていた。
「アルマン王、やはり油断ならない男ね。こんな優秀な手駒を持っているなんて。一足早く出会っていれば称号を与えれたのに」
「あの?」
「あ、ちょっと考え事をしてたの! おほほほ、ごめんなさいね!」
ばしばし、俺の肩を叩く。
女王と言っても中身は村にいるおばさんと変わらないな。
おっと、不敬なことを考えるのは不味いな。
彼女は玉座に戻り扇子を開く。
「それでは、見事依頼を果たしてくれた貴方方に、報酬をお渡ししましょう。持ってきなさい」
命令で謁見の間に台車が運び込まれる。
上には白金貨が山積みされていた。
「そこに二億あります。それとこの首都に貴方専用の屋敷を設けましょう」
「はぁ!?」
「さすがに英雄の称号は贈れませんが、住み心地の良い屋敷があれば、いつでもここへ戻ってこられるわよね。うふふ」
「いやいや、さすがにそれは……」
「女王からの快い申し出を断るって言うの? ん?」
ひぇ、目が怖い。
笑顔なのに全く目が笑ってない。
しぶしぶ申し出を受けることにした。
女王はフラウに目が留まる。
「あら、よく見ればフェアリーがいるじゃない!」
「なんか文句あるの」
「違うのよ、フェアリー族に一度会いたいと思ってただけなのよ。わたくし、幼き頃より貴方方に憧れを抱いていたの。まさかこんなところでお目にかかれるなんて」
「そ、そう……それは良かったわね」
子供のようにはしゃぐ女王。
フラウは照れているのか顔を赤くして背けていた。
◇
「でかくないか?」
「目の錯覚じゃなく大きいです」
「こんなところに住むの!?」
「きゅう!」
用意された屋敷は、まさに屋敷だった。
玄関前には噴水があり、庭には青々とした芝生が生えている。
門から屋敷までの道にはしっかり石畳が敷かれていた。
肝心の建物も二階建てで横幅が広い。
かつて俺が住んでいた家の何倍あるだろうか。
考えるだけで怖い。
こういうのって維持費とかばかにならないんじゃないか。
本当に国で管理してくれるのか。
女王はそうだと言ってたけど、あとで全部払えとかないよな。
「ご主人様、中へ入りましょ」
カエデがするりと腕に腕を絡ませ引っ張る。
嬉しそうな彼女を見ると、全てがどうでも良いように感じた。
俺の可愛い奴隷が満足ならそれでいいじゃないか。
後のことは後で考えよう。
ポケットから鍵を取り出しドアを開ける。
先にパン太と一緒に入ったフラウが、エントランスでくるりと、視線を巡らせながら回転する。
「住み心地は悪くなさそうだけど、無駄に広いわね。迷子になりそう」
「きゅう」
「パン太、あっちを見るわよ」
「きゅっ!」
一人と一匹は廊下の奥に消えた。
考えてみればこれは都合が良いかもな。
俺はここへやってくるだろうセインを待たなければならない。
あいつに全てを吐かせ、元親友として片を付ける。
その為には、快適に長期を過ごせる場所が必要だった。
さすがにスコッチェル男爵の元にいつまでもいられなかったしな。
この報酬は非常にありがたい。
「ご主人様、お風呂があります!」
カエデが走って戻ってくる。
へぇ、風呂まであるのか。
数回しか体験したことがないが、あれは体の芯まで温まって気持ち良いんだよな。
「そうだ、また頭を洗ってやろうか?」
「こ、こどもあつかいしないでください!」
「冗談だよ」
今のカエデと一緒にはいる勇気はない。
あの頃と違って今は大人の体だ。
きっと笑って誤魔化すのは難しいだろう。
「しまった。チャンスだったのに」
「?」
しなっ、と狐耳が垂れ下がる。
チャンス? 何のことだ??
疑問に首を傾げる。
「そう言えば、そろそろマイルームに行かないといけないな」
「荷物も増えましたし整理しないといけませんね」
村や街に立ち寄る度にお土産を増やしている。
飾るしか使い道のない、木彫りのクマや壺などなど。
マジックストレージは便利だが容量に限界があるので、時々吐き出してやらないといけない。
ま、土産物で良さそうなのがあれば屋敷に飾っても良いな。
「ふん、ふん」
自室で腕立て伏せをする。全裸で。
実は前々からやってみたかったんだよ。
宿だと仲間の目があってできなかったからな。
この開放感、なかなかいい。
実際、腰を落ち着ける場所があるというのは安心感が違うな。
よし、次はスクワットをするか。
いやいや、腹筋もいいな。
「ごしゅじんさ――きゃぁぁ!?」
「あ」
ドアを開けられ全裸姿を見られる。
カエデはモロに見てしまい、悲鳴をあげて逃げ出した。
お、おい、ドアを閉めろ。
それと入る際はノックくらいしろ。
いや、鍵を閉めなかった俺も悪いか。
廊下から聞き覚えのある声が聞こえる。
「本当にここにいるのにゃ?」
「宮殿からはそう聞いた」
「あの男、そんなに強かったのか」
「仲良くして損はないね。僕の推測じゃ、あれはレベル100を軽く超えてるよ」
「ドラゴンを倒したのは本当だったか」
あの声、
不味い、この状況は危険だ。
早くドアを閉めないと。
立ち上がって入り口へと走る。
「お」
「あ」
リーダーのオルロスと目が合った。
彼は視線を下げて止める。
それから「ほう」と感心した声を漏らした。
バタン。
ドアが閉められる。
「どうやら取り込み中のようだった。一階で少し待たせてもらおう」
「なにしてたんだ」
「さぁな。だが、いい大剣を持っているようだ」
「はぁ?」
足音が遠ざかって行く。
別に裸なんて見られても恥ずかしくはないが、タイミングってものがあるだろ。
これはさすがに精神的ダメージがデカい。
カエデには全裸で腕立て伏せをしているところを見られたしな。
こんこん。
誰かがドアをノックする。
「あの、ご主人様はどんな姿でも素敵です! それだけです!」
カエデはぱたぱた走り去って行った。
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