47話 新たな地へと飛ぶ戦士
エルフの里から旅立つ日。
結局、四日ほど長居をさせてもらった。
見送りにはアリューシャと長が来てくれている。
「行ってしまうのか。寂しくなるな」
「また来るさ。報酬のスクロールも全てもらったわけじゃないんだ」
「いつでも来てくれ。お前達とこの里のエルフはすでに友だ」
俺達は二人と握手を交わす。
いつかまた会える。
もしかしたら案外その時は早いかもな。
長が近づいて耳打ちする。
「転移の魔法陣どこに繋がってるか気掛かりなんだ。手間を取らせて悪いんだけど、もし問題ないようならメッセージを送って欲しい。里に入られそうな位置なら、破壊しておいてくれないか」
「分かった」
何が何でも破壊しろと言わない辺り、彼なりに活用できるか考えているのだろう。
まぁ、どこからというのはかなり気になる点ではあるが。
個人的には、ぜひ残しておきたい。
二人との別れが済み、俺達は魔法陣へと向かう。
これからどこへ飛ぶのか不明だ。
下手をすれば即死してしまうような場所に出るかもしれない。
だが、この先に何が待っているのか知りたくて仕方がない。
「行くぞ!」
「はい!」「オーケー!」「きゅう!」
三人と一匹で魔法陣に飛び込む。
どさっ。
薄暗い中で着地した。
魔法陣が光っているが空間が広すぎて見渡せない。
やけに埃臭く土臭い。
だが獣臭はしない。
《報告:偽装の指輪のレベルが2になりました》
こんな時にレベルアップか。
もう少しタイミングを考えてくれ。
……指輪に言っても仕方のないことだが。
「全員周囲を警戒。まだ明かりは付けるな。カエデは鑑定で索敵、フラウは看破で潜んでいるものがいないか確認」
「はい」「りょうかいよ」
「パン太は、そこら辺に浮いててくれ」
「きゅう!?」
剣を抜いて感覚を研ぎ澄ませる。
殺気はない、生き物の気配もない。
心なしか空気が薄い気がする。
もしかしたら密閉された空間だろうか。
「敵はいません」
「隠れた奴もいないわ」
「よし、明かりを付けてくれ」
カエデの魔法で明かりが周囲を照らす。
どうやらここは遺跡の中らしい。
散乱した瓦礫に朽ちかけた床や壁に天井。
どこにも出口がないことから密閉した部屋だと分かる。
とりあえずグランドシーフで引っかかる場所はないか探す。
「ここが怪しいな」
壁の一部を押してみると、くるんと回転して向こう側へ出る。
だが、隠し扉の向こうも明かりがなく真っ暗。
おまけに空気の流れを感じず、やはりここも密閉された空間だった。
「どこかの遺跡なのは分かるのですが、こうも手がかりがないと不安になりますね」
「早くここから出ましょ。閉じ込められるのはあまり好きじゃないの」
「きゅ」
仲間も扉を越えてこちらへとやってくる。
明かりに照らされて部屋の各所がぼんやりと姿を見せる。
先ほどの部屋と同程度の大きさだ。
しかもこちらの方が劣化が酷く、天井から落ちてくる砂が至る所で小山を作っていた。
「どうですか」
「ふむ、正面の壁が怪しいな」
壁に触れて出られる場所はないか確認する。
だが、今度は隠し扉らしき物はなく、完全に密閉された状態だった。
叩いてみると軽い音がする。
壁を破壊しないと出られないようだ。
「全員下がっていろ」
俺は助走を付けて走り出す。
壁を体当たりで粉砕するとそのまま空中を飛んだ。
「な、なんじゃぁああああ!?」
「お?」
壁を越えた先にいたのは、ローブを着た老人だった。
勢いのまま彼にのしかかりランタンが音を立てて転がった。
ぶちゅ。
老人と俺の唇が重なる。
口元にもさもさした髭があたりチクチクした。
「「おえぇぇえ!」」
揃って吐き気を催す。
キスは初めてじゃないが、さすがに男同士ってのはない。
まさかこんなところで老人となんて、予想すらできなかった。
「わ、わしの大事な唇を奪いおったな!」
「すまない……」
「嫁以外にしたことなかったのに!」
「やめてくれ、それ以上は拷問だ」
とにかくいきなり現れたことを謝る。
事故とは言えあれは俺が悪い。
格好良く壁をぶち破ってやろう、なんて変な考えを思いついてしまったのだ。
大人しく拳で破れば良かった。くっ。
「ご無事ですか、ご主人様!」
「このじいさんに変なことされてないでしょうね!」
「ダイジョウブ、ナニモナカッタ」
駆けつけた二人に問題はなかったと説明する。
一部あったが、これは俺と老人の為に伏せるとしよう。
ばたばた足音が響く。
「叫び声が聞こえましたが大丈夫ですか!?」
俺達は大広間らしき場所にいる。
奥には通路があり、そこから四人の冒険者が走ってきた。
その中のリーダーらしき、体格の良い男性が松明を俺達へと向ける。
「ご無事ですかスコッチェル卿!」
「怪我はない。少々驚いただけじゃ」
「なら良かった。ところでこの者達は?」
「知らん、いきなり壁を突き破って出てきたのだ」
「壁……?」
警戒心を露わにした冒険者達が武器を抜く。
「待ってくれ! 怪しい者じゃない!」
「だったら名乗れ。見たところ同業者のようだが、魔族が偽装しているとも限らないからな」
遺跡でいきなり現れた冒険者。
確かに怪しさ満載だよな。
「俺達は漫遊旅団。Bランクパーティーだ」
「漫遊旅団……もしや最近噂になっている冒険者か?」
「えっと、ここってどこなんだ」
「グリジット首都からほど近い遺跡の最深部だ」
うぇ!? グリジット遺跡の最深部!?
確か二十階層くらいあった気がするけど!??
しかし、割と里から近い距離に飛ばされたのは幸いだった。
歩きで三日ほどかかる距離を、大幅に短縮できたってことだし。
老人が俺の腕輪に気が付いて視線を向けた。
「おお、それは英雄の腕輪ではないか! だとするとお前さん本物か!」
「なんだじいさん、腕輪のこと分かるのか」
「見ろ、わしもかつてはこの国の英雄だったんだぞ」
老人が袖をめくり金色の腕輪を見せてくれる。
デザインは違うがどことなく似ている感じがする。
「おい、スコッチェル卿にじいさんとは無礼だぞ!」
「悪い。けど、そっちが自己紹介をしてないんだからしょうがないだろ」
「オルロス落ち着け。彼の言う通りじゃ」
「はっ」
老人が前に出て紹介を始める。
「わしは男爵の爵位を有する元英雄スコッチェルじゃ。で、そっちが護衛に付いてもらっている『
「自分はリーダーのオルロス。そっちが副リーダーのポロア、こっちはリン、最後にバックスだ」
スコッチェルは白髪交じりの髪と髭を生やした老人。
オルロスは燃えるような赤い毛を後頭部で結んだ屈強な男性。
ポロアは長い金の前髪で片目を隠した青年。
リンはココアブラウン色のミディアムヘアーのビースト族猫部族の少女。
バックスは黒短髪にはちまきを締めたふくよかに見える筋肉質の青年。
グリジットを拠点とするSランクパーティーだったように思う。
遺跡の最深部まで来るぐらいだ、相当に腕が立つ集団なんだろう。
「わしは遺跡の調査を趣味にしておってな、今回はこのグリジット遺跡の最深部を調べるつもりだった……のだが、今はお前さん達が現れて中断している」
「重ね重ね悪い」
「いいんじゃよ。それで、どうしてここから現れた」
スコッチェル卿は目をキラキラさせる。
わざわざ聞かなくとも『そこから出てきたんだ、すごい秘密があるんだろ』なんて彼の心が透けて見える。
魔法陣のことは言えない。
ここからエルフの里に入られたら大問題だ。
「なんだかよく分からない魔法陣を踏んで飛ばされたんだよ。いやぁ、びっくりしたなぁ。罠だったんだろうなぁ」
「ほう、どこの魔法陣を踏んだのじゃ」
「えーっと、アイナークの地下遺跡だったかな」
「ずいぶん曖昧じゃな」
スコッチェル卿が怪訝な顔で俺を見ている。
「奥を見させてもらうぞ」
「どうぞどうぞ」
老人は壁を這い上がって俺達が出てきた場所へと入る。
ランタンで隅々まで見てから溜め息を吐いた。
「まだ見ぬ遺物があるかと思ったのじゃが、やはりここには何もなかったようだな。もはやこの遺跡は取り尽くされてしまったか」
「探している物があるのか?」
「うむ、実は孫がとある毒におかされておっての、最上級解毒薬を探しておるのだ。今回の調査はあくまでもついでじゃ」
老人の顔が悲しみに歪む。
それを見ているとひどく心が痛んだ。
彼の力になってあげたい、そう思えたんだ。
俺はリュックを下ろしマジックストレージを取り出す。
布の上で念じれば収納されている物が出てくる
取り出した小瓶をスコッチェル卿へと渡した。
「最上級解毒薬だ」
「なんと!?」
「これで孫を助けてやってくれ」
小瓶を受け取った老人は、膝を屈し目を閉じて深い安堵の息を漏らした。
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