40話 戦士、エルフの里へ行く1


 最後の貯蓄系――スキル貯蓄が壊れた。


《報告:スキル貯蓄のLvが上限に達しましたのでランクアップとなって支払われます》

《報告:スキル効果UPの効果によって支払いがランクアップとなりました》

《報告:スキル貯蓄が破損しました。修復にしばらくかかります》


《報告:スキル経験値倍加・全体を取得しました》

《報告:竜眼を取得しました》

《報告:使役メガブーストを取得しました》

《報告:ジョブコピーを取得しました》

《報告:超万能キーを取得しました》


 聞いたこともないスキルばかりだ。

 全くもって使い方が分からないものもある。


 いや、待て。


 竜眼――もしかして竜騎士が取得する模擬竜眼の上のスキルか。


 模擬竜眼は隠れた存在である、ゴーストや精霊などを感じることができるという。

 それのさらに上となれば視覚で捉えることができるのではないだろうか。


 使役メガブーストは……恐らくテイムマスターで取得できるスキルだ。


 テイムした魔物を強化するのだろう。

 ただ、使役ブーストは聞いたことがあるが、メガはない。


 ジョブコピーは模倣師のスキルなのだろうが、やはり名称通り相手のジョブを模倣するのだろうか。

 だとすると模倣師というのはそのままの意味のジョブ?

 ずっと後回しにしていたが、一度使って確認してみるべきだな。


 超万能キーも初めて聞くスキルだ。


 グランドシーフが『特殊キー』なる、解錠スキルを有していたのをどこかで聞いたことがある。もしこれがその上位ならなんでも開けられるのだろうか。


 また一つ人外へと踏み出した気がする。


「どうされましたか。ぼーっとされてますが」

「また貯蓄系が壊れて能力が増えた」

「やりましたねご主人様! おめでとうございます!」

「お、おお、ありがとう」


 嬉しそうに抱きついてくるカエデに苦笑する。


 いつだって俺の可愛い奴隷は受け入れて喜んでくれる。

 嬉しいことなのだが、なんだか照れくさくて直視できない。


「また強くなったの? にしては変らないけど?」


 フラウが俺の周りをくるくる回りながら観察する。

 その度に花のような甘い香りがした。


 なんとなく頭を撫でてやると、フラウは顔を真っ赤にして固まる。


「ふ、不意打ちは反則なんだから」

「じゃあ止めておくか」

「いやっ! もっと撫でて!」

「どっちだよ」


 手の平に頭をぐりぐり押しつけてくるフェアリーは可愛い。


 フラウは体格こそ小さいが、誰もが虜になるような美少女である。

 落ち着きのなさは玉に瑕ではあるものの、それもまた彼女の魅力ではないだろうか。

 今さらながらに仲間にできて良かったと思っている。


 とんとん。


 誰かに肩を叩かれる。


「にいちゃん、そろそろあれのお代払ってもらえるかな」


 目を離している隙に、パン太が鍋のミルクを全て飲んだようだ。

 本人は満足そうに空中を漂っていた。


 俺は店主と並んでいた客に謝罪した。



 ◇



 頭を悩ませる種はいつだって存在する。

 今はセイン達がそうだ。


 だが、いくら一人で頭を抱えたところで、この問題は解決などはしない。


 だったら少しでも見識を増やし、多くのものをこの目で見て、心に余裕をもたせるべきだと俺は思う。

 以前の俺ではなく、少し変わった俺で彼らを判断するのだ。

 そうすることで今までは見えなかったものも見えてくる気がする。


 だから、だからこそ俺は精一杯この旅を満喫するつもりだ。


「ご主人様、見てください! あれが噂のクロイエスの塔ですよ!」

「うわぁ! ここからでも大っきいわね!」

「きゅう」


 村にある展望台から景色を一望する。


 複数の山々に囲まれた森林、その中央には荘厳な巨塔がそびえ立っていた。


 クロイエスの塔――古代種の遺跡の一つだ。


 用途不明、建造方法も建造理由も不明、その上内部の構造も不明。

 その理由は単純で、塔のある一帯はエルフの支配圏なのだ。


 ヒューマンは塔に近づくことができず、こうして遠くから見物するしかできない。


 とは言えここからでも見応えは充分、むしろ遠目の方が塔の素晴らしさが映えていた。


 塔の外観は大変美しい。

 白を基調としていて黄金の装飾が施されている。

 最上部には宝石らしき赤い石が眩く光を反射していた。


 厳かでそれでいて幻想的な建造物である。


 レベルの高い俺達には望遠鏡を用いらずともよく見えていた。


「この村が観光名所になる理由が分かりました」

「そうだな」

「ほんと、近くで見ると山みたいだけど、遠くからだとすごく綺麗ね!」

「そうだ――ん? 山?」


 フラウの発言に首をひねる。

 強い違和感を抱いたのだ。


 その言い方だと目の前で見たことがあるようだぞ。


「……何その顔」

「間近で見たことがあるのか?」

「前に言ったでしょ。フェアリー族はエルフと仲が良いって」

「あー」


 里で聞いた気がするな。

 完全に忘れてたよ。


 てことは、フラウがエルフとの橋渡しをしてくれれば、もっと近くであの塔を見られるのか?

 それどころか中も見させてもらえたりして。


 ヤバい、めちゃくちゃ塔の中を見物したくなってきた。


「なぁ、エルフに見せてくれってお願いできるか」

「うーん、あの人達って結構頑固だからなぁ、上手く説得できれば里に入れてもらえるだろうけど……そんなにあの塔を近くで見たい?」

「見たい!」


 フラウがニマーと笑う。


 嫌な予感がするな。

 我が儘でも言うつもりか。


「フラウもレベル200になりたいの。主様、協力して」

「その程度で良いのか」

「これは偉大なる種族に仕える者としてのプライドよ。カエデに追いつき、少しでも主様の役に立つの。『あのフェアリー胸も実力もつるぺたじゃん』なんて後ろ指を指されない為にも、フラウはここで急成長を遂げるわ」


 くわっ、と大きく目を見開く。

 鬼気迫るオーラに気圧されてしまう。


 胸も実力もつるぺたってどんな意味だろう。


 とにかく胸の大きさを気にしているのだけは理解できる。


「じゃあ里に着くまでの道中、フラウのレベルアップを優先しよう」

「やたっ! 目指せレベル200! ブイッ!!」


 嬉しそうにピースする。

 空中をふわふわ跳ぶ度に、黄緑色のツインテールが揺れていた。


 しかし、エルフの里とは興味深い。


 普段接することのない種族との交流、これは冒険を愛する者として非常にそそられる。

 それにエルフは漏れなく見目麗しいと聞く、気になるのは男として自然なことだ。そう、当たり前で普通のことだ。


 ぎゅっ、とカエデが俺の腕を抱きしめる。


「ご主人様には私がいますからね」

「お前が考えてるようなことはしないさ」

「そ、そうでしたね」


 彼女は顔を真っ赤にして上目遣いで俺を見る。

 すりすり。尻尾が俺の足に匂いを付けるようにこすりつけられていた。


 頭を撫でてやると目を閉じて幸せそうな表情をする。


 本当に可愛い奴隷だ。


「あるじさまー! もういくよー!」

「悪い!」


 フラウに声をかけられ二人で歩き出す。




 どがんっ。


 フラウのハンマーが振り下ろされ、レッドベアがすさまじい勢いで弾き飛ばされる。


 そこから木を縫うようにして高速飛行、ゴブリンとオークの群れを瞬く間に蹴散らし、最後に残ったグリフォンを地面にめり込ませた。


「レベル220達成!!」


 ハンマーを掲げてフラウが叫ぶ。


 ここまでずっと見てきたが、まるで小さな嵐だ。

 目に付いた敵を片っ端から倒すので、死体から素材を集めるだけで一苦労。


 狩りすぎじゃないかと心配になるほどのハイペースだった。


「満足したか」

「もちろん。これで足手まといにはならないわ」


 足手まとい……フラウの焦る気持ちは痛いほど分かるよ。

 俺もちょっと前までそうならないように毎日必死だったからさ。


 こうして考えると、俺も、カエデも、フラウも幸運だったんだな。


 運が重なり繋がりあって三人はここにいるんだ。


「!?」


 びぃいいん。


 どこからか矢が飛んできて木に突き刺さった。


「ここはお前達の踏み込める場所ではない。すぐに帰れヒューマン」


 高い位置から着地したのはエルフの女性だった。


 白い肌に金色の長髪を三つ編みにしている。

 スレンダーな体には、下着かと思うような布面積の少ない衣類が付けられていた。


 作り物のような端正な顔立ち、そしてエルフ特有の長い耳。


 ぎりりり。


 彼女は弓を構えたまま鋭い視線を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る