無責任な青い春

みなづきあまね

無責任な青い春

梅雨真っただ中。晴れの日なんていったい最後はいつだったのだろう。今日も今こそは雨は降っていないが、傘が手放せない。


18時過ぎ。既に人がまばらになったオフィスで彼女が鞄を持ったまま、同僚と言葉を交わしていた。俺はその様子を目の端に捉えると、周りに怪しまれない程度に手際よくペンケースにペンをしまい、タブレットの電源を落とした。


彼女は周りに挨拶をするとドアを抜けて行った。俺はそれから1分じっと座っていたが、時間きっかりに立ち上がるとリュックを背負うこともままならない状態で、大股で外へ出た。階段を駆け下りたが、既に彼女は見えなかった。・・・遅すぎたか?と焦ったが、外に出たところで彼女がタイムカードを押す姿が見えた。


俺は道路に出て少ししたところで「お疲れ様です。」と声を掛けた。急いで追いかけてきたことを悟られないように振舞ったつもりではいたが、肩が若干上下しているのは隠し通せていなかった気がする。


「あ、お疲れ様です。」


彼女はスマホから目をこちらへ向けると、笑顔で返してくれた。それから二人で同じ電車に乗り、先に彼女が降りてそこで会話は終わった。


20分くらい経っただろうか。スマホでゲームをしていた俺の目に、彼女からの通知が入ってきた。きりが良い所でゲームをセーブし、俺は通知を開いた。


「さっき話していたばかりなのに、すみません。1個だけ伝えておきたいことがあって。帰宅してなんだかイマイチだったので熱を測ったら、微熱でした・・・何事もないとは思うのですが、一応気を付けてください。」


彼女の様子を見る限りでは、あまり体調が悪そうには見えなかったが、今週は激務で何度もふらふらになっているのを見かけたので、多少心配になった。


「ゆっくりしてください。今週忙しかったからだと思いますが、お大事に。微熱ということはちょっとした疲れの場合もあるので、ゆっくりしてくださいね。」


俺はねぎらいの言葉を送った。


しばらくすると彼女から返信があった。


「仕事したらすぐ寝ます!」


は・・・?もう週末を迎え、しかも体調不良の時に何を考えてるんだ?俺は思わず、強いニュアンスで早く休むようにと返事をした。


彼女はしぶしぶと言った感じで、「えー・・・いやだ。」と最初は言っていたものの、「じゃあ22時までには寝ますね!」と折れてくれた。


「そろそろ寝ましょう。」


そう俺が送って間もなく、彼女の返信に俺は息をすることを忘れ、指を宙で持て余したまま、画面を凝視した。


「月曜日、いないんですね・・・寂しいなあ」

「ちょっかい出せなくて、笑」

「おやすみなさい!」


そう連続で来て、俺はやっと意識を取り戻し、返事を打ち込んだ。


「ちょっかい出すの一言なかったら、爆弾発言ですからね、笑。」

「おやすみなさい!」


俺の挨拶にすぐ既読がつき、やりとりは終わった。


「あー、可愛すぎる・・・。」


俺はスマホをベッドに投げ、椅子の背もたれに寄り掛かった。正直、彼女が俺に興味を持っているかは微妙な所だ。だが、興味もない相手に、仕事で会えないことを「寂しい」と伝えてくるだろうか?それともそういうことを何の気なしに普段からふれまわっているのだろうか?


まさしく爆弾発言に俺は既に30歳を迎えているにも関わらず、遅すぎる春がやってきたような気がして、頬が緩むのを禁じえなかった。

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