百合短編集

飯田三一(いいだみい)

溺れる

あたしはいつも、その乾いた目に魅せられる。あたしはそれにに目を渇かせる。乾いて、乾いて…


私は最近、ある一人の女の子から獣のような眼差しに喰われそうになっている。

私は襲われたい…んだと思う。今まで強い女性として振る舞って来て、女性から憧れの眼差しは沢山受けたしたし、恋愛感情を持った眼差しも向けられて来られた。けれど。

私を壊すことを目的としているような、その経験したことのない眼差しは、その瞳は、私を鬼胎させると同時に、昂奮させた。

私はその視線を向け続けてくれるように、彼女の前では気丈を装った。

そんなことをし続けていると、私は、私で無くなってしまうような感覚に度々陥ってしまうようになる。特に1人でいる時は顕著で、したこともなかった自慰行為までするようになってしまった。

私は、まだしっかりと話したこともない一人の女の子に、溺れてしまっていた。


あたしはその目に、その鼻筋に、その身長に、その振る舞いに、そのしっかりした性格に、人生で初めての恋心を抱いた。

今まで、恋という普遍が分からず苦労して来た人生だった。恋情を含む会話の全てについていけなくて、苦労が多かった16年だった。けれど、高校の入学式の日、新入生の前に出て、祝辞の言葉の述べるあなたの一挙手一投足が、容姿が、あたしの心を射止めて離さなかった。

彼女を心底壊したいと、そう思った。初めての恋は、私の愛の貌を分からせてくれた。これがあたし。聞いていた恋とは些か違う気もするけれど、これは間違いなく、私の初恋だった。


そして私は今、その女の子に襲われている。

そしてあたしは今、あなたを襲っている。


あたしは、抑えられなくなった衝動をそのままに、あなたを美術室に呼び出した。

呼び出された私は、夕焼けで擦りガラスが赤く染まる教室、電気もつけずにたたずむその女の子を見る。私は唇を噛んだ。にやける口を抑えたいから。

あたしはゆっくりこちらに歩いてくるあなたを見つめる。いつもと少しだけ違うあなたに、溢れかけていた何かが溢れたような感覚がした。

私は突然、床に叩きつけられた。その瞳が私の目の前に、私の真上に来る。口の紐は切れていた。

笑った。あなたが笑った。あたしに今から何されるか分かってないのかな?

息が先に荒くなったのは私だった。もう隠さない。どうにでもなればいい。

あなたは、何をされるか。もう分かっているようだった。

「んッ…」

2人は溺れた。

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